近づく利上げ-楽観できるのか?
ついに今月、米国で利上げ(政策金利の引上げ)が始まることになりそうです。金融市場(特に、もっと早いタイミングの利上げを予想していた多くの人)にとっては、待ちに待った利上げでしょう。
雇用統計が決定打に
今月15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ判断をほぼ決定づけたと言えるのは、4日に発表された11月の米雇用統計です。米国の金融政策を考える上で、最も重要な経済指標です。
中でも非農業部門雇用者数は前月比21.1万人増加しました。米連邦準備制度理事会(FRB)が重視するのは中期の傾向ですが、過去12か月の平均も22万人増と、雇用回復の目安である20万人超です。
失業率も5.0%と、良好な水準です。時給は前年比2.3%増にとどまったものの、3%を超える賃金増は利上げの条件でない、というのがFRBの見解です。よって、利上げの障害にはならないでしょう。
利上げは良いこと?
FRBのイエレン議長も、今月の利上げを強めの調子で示唆しています。とりわけ2日に行った講演では、「利上げは米経済にとって良いこと」というイメージを流布しようと、躍起になっていたようです。
つまり、利上げは米国が金融危機の影響から脱した証拠だというのです。また、利上げはあくまでも「(異例な超低金利からの)正常化」と強調し、金融引締めとはいいません(実際には引締めですが)。そして、正常化(利上げ)が始まる日を皆が楽しみにしていると思う、とまで述べ、講演を締めくくりました。
皆が楽しみにしているかどうかはさておき、ここで利上げを見送った場合、皆が驚くでしょう。イエレン議長は、皆を驚かせる手法を好みません。よって、大方の予想どおり利上げを今月発表しそうです。
「見切り発車」の面も
すなわち、利上げを待ちくたびれた市場参加者と今年中に利上げを行いたいFRB、この両者の思わくが12月の利上げという点でほぼ合致しています。その意味では、絶好の利上げタイミングと言えます。
ただし、本当に利上げが必要なのか、は別問題です。利上げとは本来、景気の過熱を冷やすために行います。しかし実際の米経済がそこまで強いかというと疑わしく、利上げは「見切り発車」のようです。
事実、新興国経済の減速、米ドル高による輸出の鈍化、原油安に伴う関連投資の減少、製造業の低迷、所得格差・不平等の拡大など、米経済の懸念材料には事欠きません。金融機関による融資についても、厳しめの姿勢がみられます。そうした中、わずかな利上げでも米経済を失速させないとは限りません。
利上げ後の米国株
それでも、金融市場は12月の利上げ開始を応援しているかのようです。11月の雇用統計を受け利上げ観測が強まった場面でも、米国の株価は一旦大きく上がりました。
これは、米経済が盤石とは言えないことに鑑みれば2回目以降の利上げはゆっくりしたペースになる、との予想が増えているからです。そうした利上げであれば金融市場の波乱材料にはならないだろう、と楽観されているようです。
とはいえ、利上げとは金融引締めである以上、通常は景気や株価を抑えます。過去の米国株をみても(図表)、利上げ後しばらくは値下がりが目立ちます。このため、米国株投資などにおいて慎重を期するのであれば、利上げ後1か月ほど、様子見を心がけるということでもよさそうです。
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