米国の政治混乱は続く:共和党に鳴り響く不協和音

2023/01/16 <>

米民主党への追い風

米国の経済には、明るい動きが出ています。特に、昨年急上昇したインフレ率に関し、低下基調が鮮明になっていることです(図表1)。これは米国民の不満を和らげ、バイデン大統領の支持率を支えそうです。

バイデン氏や同氏が属する米民主党への追い風は、政治面でも生じています(ただし足元、同氏の副大統領時代の機密文書取扱い問題がやや逆風に)。ライバルの米共和党が、党内の不協和で、混迷を極めているのです。ただ、それは米国の政策運営を妨げかねず、インフレ鈍化とは違い、米国民にとって不幸です。

15回目の投票で決着

1月3日、今年度の米連邦議会が開会しました。下院では、昨秋の中間選挙を受け共和党が多数派となったことに伴い、この日、新議長が選出されるはずでした。しかし共和党内の離反で、それが遅れました。

結局、1月7日、共和党のマッカーシー氏が新議長に選出されました。15回目の投票で、ようやく同氏が投票数の過半を獲得したのです。1回の投票で議長が決まらなかったのは、米国の政治史上、実に100年ぶりです。通常は、多数党の議員がその党の議長候補者に票を投じることで、議長が円滑に決まります。

フリーダム・コーカス

マッカーシー氏が過半数票の獲得に難航したのは、共和党議員の一部が、同氏への投票を拒否したためです。離反者は徐々に減り、15回目に十分な票を獲得できましたが、同氏は大きな代償を支払いました。

当初離反者(約20人)のほとんどは、保守派(自由市場などを重視)内の強硬派「フリーダム・コーカス」に属する共和党議員です。そうした議員の支持を得るべくマッカーシー氏は、強硬派の提案への同意に追い込まれました。議長の解任是非を問う採決を1名の議員で求めることが可能、との提案などです。

下院議長は重要な地位

米国の憲法上、大統領が何らかの理由で職務を遂行できなくなった場合、副大統領が職務を代行します。さらに副大統領の職務遂行にも支障が生じた場合、大統領職を担うのは、下院の議長にほかなりません。

つまり、米国の政治において下院議長は「ナンバー・スリー」と言うべき地位です。その地位が確定しない状況では、議会の審議も滞ります。よって下院議長の選出は、速やかに行わねばなりません。そうした基本的な手続きにも難航するのが、米政治の現状です。その大きな原因が、共和党内の不協和なのです。

米国政治は一層混乱か

マッカーシー氏は、共和党支持層の中でも、さほど人気のある人物ではありません(図表2)。それも踏まえて今般、ポピュリズム(大衆迎合主義)色の強い保守強硬派は、同氏への支持を渋ったのでしょう。

共和党議員の大半は、穏健な保守派です。しかし、ごく一部の強硬な共和党保守派が、議会審議を阻害できるのです。下院議長選出をめぐる1世紀ぶりの混乱で、それが露呈しました。連邦政府債務の上限引上げなど、議長選出よりも困難な課題が山積する中、今年の米国政治では、一層の混乱が起こりそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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