矛盾の多い経済政策:なぜアベノミクスは失敗したのか?

2022/11/07

緩和策で円安を促進、介入で円安阻止

日銀や日本政府は、円相場を一体どうしたいのでしょうか。日銀の超金融緩和策は、円安を促します。しかし円安の急進(図表1)を阻止するための為替介入を、9月以降、政府・日銀は何度も行っています。

円相場への影響という点で、金融緩和と円買い介入は矛盾します。日銀や政府の本音は、適度な円安はよいが急激な円安は抑えたい、というものでしょう。しかし円安を抑えたいのであれば、日銀が緩和策の修正を示唆すべきです(利上げの可能性など)。それをせずして円買い介入を行うのは、やはり矛盾です。

「2%」を超えても超金融緩和を継続

為替の観点を別にしても、日銀は政策を見直すべきでしょう。特に長期金利を0%近辺に抑えるべく、日銀が長期国債を無制限に買い入れる、という策は市場機能をゆがめるため、いつまでも続けられません。

こうした策は、日本のインフレ率を「2%」に引き上げ、それを安定的に維持するためのものです。そして今年、インフレ率は4月以降2%を超え、直近は3%です(図表2)。もはや、目標がほぼ実現したと見なしてよいでしょう。にもかかわらず日銀が超金融緩和を続けているのは、本来の目標との矛盾です。

一時的なインフレで賃金は増えるのか?

それでも足元のインフレは資源高などによる一時的なもの、というのが日銀の黒田総裁らの考えです。十分な賃金増を伴っておらず、2%のインフレ率が安定的に実現したとは判断できない、と述べるのです。

日銀が期待するのは、景気回復とインフレの基調が強まり、それに伴い賃金が増えることです。しかし、この点でも矛盾があります。つまりインフレが一時的なのであれば、就業者の基本的な給与はさほど増えないはずです。多くの企業には、一時的なインフレで賃金を大きく増やすほどの気前の良さはありません。

目標未達にもかかわらず、政策は成功?

一時的かどうかはともかく、少なくとも今は円安などによる物価高が、国民生活を直撃しています。賃金が大きく増えるという期待が根拠薄弱である以上、日銀は緩和策を修正し、円安圧力を抑えるべきです。

「大胆な金融緩和」は、アベノミクス第一の矢として2013年に始まりました。目標は、2%のインフレ率を実現することです。しかし10年近く経った今、目標未達だと黒田総裁らは述べているのです。それでも同総裁は、アベノミクスは失敗ではない、と今も強く主張しています。これは、明らかな矛盾です。

「心」のコントロールは民主主義的か?

アベノミクスの失敗は初めから運命づけられていた、と言えます。今だから言える、というものではありません。当時の政権に忖度しない人々の中には、アベノミクスに最初から批判的な論者もいたのです。

「大胆な金融緩和」の根底にあるのは、緩和策はインフレを促し、「デフレマインド」を変えることができ、賃金が増える、との思想です。日銀が国民のマインド(心)をコントロールしようという、不遜な考え方です。そうした思想に立つ政策は、各人の「心」を尊重する民主主義と矛盾し、その失敗は当然です。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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