ウクライナ危機と原油:ロシアへの制裁で200ドル超えも?

2022/03/14

原油価格の高騰を懸念

現在の危機は、何より、ウクライナ人が苦しんでいる生命・尊厳の危機です。ただ、世界大戦に発展する可能性は、まだ高くありません。そのため、いま市場参加者が主に懸念しているのは、原油の動向です。

その価格は、3月8日、1バレル130ドル前後へ上昇しました(図表1)。ロシア軍がウクライナに侵攻した2月24日から、約3割も上昇したのです。その後は一旦下落したものの、産油大国であるロシア(図表2)をめぐる紛争がさらに激化すれば、200ドル超の原油高もあり得る、との見方も出ています。

米国と欧州には温度差

8日には、ロシアからの原油・ガス輸入を禁じる旨を、バイデン米政権が発表しました。同政権は原油関連の制裁にはそれまで慎重だっただけに、この制裁の動きに市場はやや驚き、原油高騰を促しました。

一方、欧州連合(EU)は、まだ慎重です。そして、ロシアの原油・ガスなどへの依存を2027年までに解消する、といった方針表明にとどまっています。原油価格が一旦下落に転じたのは、EUのそのような姿勢も一因です。しかし、紛争がもっと激化すれば、EUも制裁を一段と強化せざるを得ないでしょう。 

米国の経済・政治状況

バイデン政権が強硬姿勢を強めているのは、第一に、EUとは異なり、米国の場合、ロシアのエネルギーへの依存度が高くないからです(米国の原油・石油製品の輸入において、ロシア産は約8%(2021年))。

第二に、米議会では、バイデン大統領の属する民主党だけでなく、共和党の議員からも、ロシアに対する制裁を求める声が大きくなっているからです。これは、近年の米国政治では珍しい、与野党の協調です。ただし、共和党議員には、ウクライナの人々との連帯という正義感のみならず、政治的な打算もあります。

米共和党の政治的打算

原油価格は世界的な需要・供給のバランスで決まるので、禁輸などでロシアの原油供給が減れば、価格は上昇するはずです。これは、米国のガソリン代などを上昇させ、インフレ(物価上昇)を加速させます。

「車社会」の米国では、人々はガソリン代に敏感です。それが高騰すれば、国民の不満は、バイデン大統領にも向かうでしょう。身近な不満を現政権にぶつける傾向が、米国人にはあるからです(どの国の人々も同様ですが)。そのため、今秋の中間選挙で共和党が有利になる、と同党議員は目論んでいるようです。

200ドルにはまだ遠い

それだけにバイデン政権は、ロシアの原油供給減を補うべく、ほかの産油国に増産を働きかけねばなりません。特に、サウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)の加盟国には、増産余地が残っています。

また、イランやベネズエラとも、早急に和解すべきです。両国に対し、米国は現在、安全保障や人権の観点から、厳しい経済制裁を行っています。それを緩めれば、両国の原油供給は、大きく増える見込みです。そうした動きも想定される以上、200ドルを超えるような原油高となる可能性は、まだ低いでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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