衆院選で一歩前進:アベノミクスを堂々と批判できる環境に

2021/11/01 <>

夢から覚めた日本

日本経済を即座に復活させる、魔法のような特効薬はありません。10月末の衆院選でも、各党はそうした大げさな政策を呈示しませんでした。それは経済の見方が、より健全なものに前進したことを表します。

特効薬が存在する、という夢を人々に与えて登場したのが、アベノミクスでした。それが虚しい夢だったことは、すでに明らかです。そのため衆院選の争点の一つは、アベノミクスへの評価でした。結局、自民党が単独過半数を維持したのは、アベノミクスから距離を置く岸田首相の姿勢も功を奏したようです。

実質賃金は増えず

最近における複数の世論調査でも、アベノミクスの修正や見直しを求める声が大半です。2012年12月に発足し、8年近くも続いた安倍政権の経済政策は、生活実感を改善することに失敗したからでしょう。

実際、この期間中、物価を考慮した実質賃金は、ほとんど増えませんでした。長期的な低迷が続く日本の賃金(図表1)を増加させる上で、アベノミクスは無力だったのです。2018-19年には、平均賃金の算出基準が目立たぬよう変更されたことが露見し、実態は統計より悪いのでは、という不信感も生じました。

成長率は高まらず

賃金の低迷については、企業が従業員に利益を十分に分配しなかった、との理由もあります。同時に、日本の経済成長率が極めて低かったことも、大きな理由です。要するに、分配も成長も、ともに重要です。

成長面では、アベノミクスのもとでの年間成長率は1%と、安倍政権の成長目標(2%)の半分でした。8年もかけて目標に全く届かなかった以上、その政策と思想が間違っていたと判断せねばなりません。多くの主要国は日本よりも大幅に成長したので(図表2)、海外の事情に責任を転嫁することはできません。

円安の弊害が露呈

安倍政権や「専門家」が特効薬のように宣伝したのは、大胆な金融緩和(日銀による資産購入など)でした。それにより円安や物価高が進み、支出と投資の好循環が生じる、との「理論」が流布されたのです。

たしかに、ドル円相場は80円近辺から一時120円台へ急進し、その恩恵を受ける輸出企業などの株価が上昇しました。物価についても、日銀のインフレ目標(2%)達成には失敗したものの、輸入品、食品などの価格は上昇しました。しかし円安によるインフレは、実質賃金減をもたらし、消費を圧迫しました。

呪縛を解き放って

ただし、アベノミクスの根本問題は、政策の内容以上に、その思想にありました。物事の明るい面を見よう、という「光明思想」が捻じ曲げられ、アベノミクスへの批判を許さない空気が醸成されたのです。

しかし、全体主義的な空気による呪縛は、ようやく解けてきました。その証拠が、世論や岸田政権におけるアベノミクス修正論です。そして、デジタル化や脱炭素、就業者への分配強化などで「新しい資本主義」を実現する、という岸田首相の基本方針は、おおむね健全であり、アベノミクスより期待が持てます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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