FRBバランスシート縮小決定─米国株高へ/119円超の円安も

 

急激な利上げを回避するバランスシート縮小策により、米国景気拡大は長期化しそうです。

急激な利上げ回避が主目的のB/S縮小策

FRB(米連邦準備制度理事会)は9月19-20日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、(リーマンショックを受けた国債等買入れ策により0.9兆ドルから4兆ドル台へ膨らんだ)FRBのバランスシートを、10月から縮小させると決定しました。

早くも今年1月、イエレン議長はバランスシート縮小策の効用を説いていました。新たな財政政策など情勢変化に機動的に対応する重要性を述べた際に、「バランスシート縮小策は、利上げペースをよりゆるやかにすることができる」と説き、「利上げ2回分に相当する効果のある縮小策を使えば、利上げの回数を減らせる」と示唆しました。実際、FRB内では「景気を過度に刺激する財政政策が導入されたりすれば、利上げペースを早めざるを得ない」(5月のFOMC議事要旨)と懸念する声が目立っていました。

長期金利の急上昇を恐れるFRB

イエレン議長の1月の発言は、昨秋の大統領選で大幅減税等を公約したトランプ氏が勝利し、米国長期金利が急上昇したトランプ・ラリー直後のことでした。同じ1月に「バランスシート縮小策は必要でない」と示唆した前任者のバーナンキ前FRB議長とは対照的です。FRBが最も恐れるのは、長期金利の急上昇です。企業や家計が銀行借入を控え、設備投資や住宅投資が急減し、米国景気を失速させかねないからです。

そしてトランプ減税が現実味を帯び、米国株価が連日、最高値を更新する中で、昨日、イエレン議長率いるFRBは全会一致で、バランスシート縮小策を決定したのです。同時に公表した、政策金利の最終的に到達が見込まれる水準についても、FRBは従来の3.0%から2.8%に引き下げました。バランスシート縮小策による利上げ回数の節約効果が反映され、「よりゆるやかな利上げペース」となった形です。米国景気拡大は長期化しそうです。

現実味を帯びるトランプ減税

税制改革は、8月下旬に大統領側近と与党執行部で構成される6名のメンバー、すなわち「ビッグ6」が大枠合意に至ったことで、ホワイト・ハウスの手を離れ、議会審議がスタートしています。中間層にメリットの大きい基礎控除を2倍にする以外は、全ての各種控除を原則廃止し「簡素な税制」とすること等で、減税の財源をねん出する狙いのようです。

与党・共和党だけで進めた、減税の財源ねん出の目的もあったオバマケア代替法案が不成立となった失敗を踏まえ、トランプ政権は野党・民主党議員の協力も得て、9月末が期限であった債務上限問題の回避に成功しました。税制改革についても、共和党の上院・財政委員会ハッチ委員長(ビッグ6の一員)が「富裕層を利する減税措置を見送る用意があると示唆」する等、民主党議員の賛成票を得る姿勢を見せています(米政治専門サイトのポリティコ、9月19日付)。来年の中間選挙を控え、実績をアピールしたい与野党議員の焦りも感じられ、トランプ減税は現実味を帯び始めています。

政権交代がなければ「永遠に続く」日銀緩和

昨日、米国の長期金利は上昇し、トランプ・ラリーが収束した3月から続く長期金利の右肩下がりの抵抗線を上方に抜けました(図表参照)。今回FRBが「年内あと1回の利上げ」を示唆したこと等が背景のようです。先行き、トランプ減税の議会成立が見込まれる年末にかけ、長期金利は上昇トレンドに入りそうです。もっとも、バランスシート縮小策によって、米国金利の急激な上昇は回避されそうです。

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一方、日本の債券市場では「安倍政権が交代し、黒田総裁が退任しない限り、長期金利をゼロ%に誘導する日本銀行の政策は永遠に続く」との観測も根強く、日米金利差から年末にかけ(トランプ・ラリーで到達した昨年12月の)1ドル=119円付近を超える円安も視野に入りつつあります。安倍政権が解散総選挙の意向を表明したことから、今後は日本の政局に注目が集まりそうです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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