「英国は米国のトロイの木馬」─仏新政権躍進/英保守党惨敗

 

英国EEC加盟を拒否した約50年前の仏政権を彷彿させる「仏独vs.英米の対立構図」再来です。

仏マクロン新党は約50年振りの圧勝へ

フランスでは、下院議会選挙の第一回投票(6月11日)結果を受け、複数の世論調査が、今週末の第二回投票(18日)を経て出現する新たな勢力図につき、マクロン大統領の新党が全577議席のうち3分の2以上の議席を獲得すると予測しています。1968年に全議席の80%超を獲得したシャルル・ド・ゴール大統領(当時)以来の圧勝となる見通しです。

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仏国民に好感された対米姿勢

マクロン新党が大躍進する背景には「若いが、米国とも対等に渡り合える新大統領」との好印象をフランス国民に与えたことも一因と考えられます。トランプ大統領が(地球温暖化対策の国際協調である)パリ協定から離脱を表明すると、マクロン大統領は「“私たちの惑星”を再び偉大にしよう!」と英語で演説しました(6月1日)。「米国を再び偉大にしよう!」とのトランプ大統領の決まり文句をもじった、米政権に対する痛烈な批判です。

かねてよりマクロン氏は、大統領選を控えた今年1月には米国第一主義のトランプ政権下の米国には『世界の警察官』の役割を期待できないとして、米国と距離を置く姿勢を示しています。EU(欧州連合)離脱交渉を控えた英国に対しても、「米国の属国(vassal state)化しつつある」(英紙テレグラフ他)と述べ、距離を置く姿勢を示しました。

英国EEC加盟を拒否したド・ゴール大統領

「英国は米国の属国」というマクロン大統領の言葉で思い出されるのは、約50年前の「英国は米国のトロイの木馬」とのド・ゴール大統領の言葉です。駐日EU代表部のウェブサイトには「仏大統領のたび重なる拒否で難航を極めた英国の加盟」との小見出しの説明文に、EUの前身であったEEC(欧州経済共同体)に加盟を求めた英国を拒否した際の言葉として登場します。「英国を通じて米国から圧力を受けることは避けたい」とのド・ゴール大統領の判断だったようです。

英国ではEU離脱交渉に臨む保守党が惨敗

英国ではメイ首相が、EU離脱交渉を強い姿勢で進めるための国内体制固めを狙って前倒しした総選挙(6月8日)で、与党・保守党は惨敗しました。選挙前の過半数(326)の330議席が318議席に減り、過半数を割り込んだのです。過半数の確保に向け、メイ首相は、議員数10名の少数政党(民主統一党)に連携を働きかけています。

メイ首相は、移民の流入抑制を優先し、域内無関税の欧州単一市場へのアクセスを断念する「強硬離脱」(hard Brexit)路線でした。しかし惨敗により「強硬離脱はゴミ箱行きになった」(オズボーン前財務相)との見方が目立ちます。「メイ首相は、移民流入抑制に柔軟な姿勢に転換せざるを得ない」との観測もあります。与党・保守党の勢力低下は新たな懸念材料ですが、かねてより強硬離脱を警戒していた市場には、今回の選挙結果はプラス材料と言えそうです。

「仏独vs.英米の対立構図」には長い歴史

英国のEU離脱交渉は来週(6月19日週)開始予定です。先行き、折に触れ、英国ポンドは変動性が高まる局面も予想されます。もっとも、仏独などユーロ圏も英国も、ゆるやかな景気拡大が続いており、昨年6月の英国国民投票も含めEU離脱関連の市場の懸念は、景気を腰折れさせる程、大きくありません。

むしろ欧州株式市場は、(割高感も出てきた米国株からの)資金シフトを進める長期投資家の受け皿となる形で「この約2ヵ月間、資金流入が続いている」との観測も根強いようです。加えて、「(諸インフラの整った)ロンドンの国際資本市場としての地位は変わらない」との冷静な見方も目立ちます。離脱交渉の市場への悪影響は、実は、余り大きくないのかも知れません。

その理由の一つには、もともと英国は「独仏を中核国とする所謂『欧州』よりも、米国とのつながりの方が強い」、「微妙な米欧の政治バランスに立脚する経済大国」であるためかも知れません。ド・ゴール大統領を彷彿とする、マクロン大統領の「英国は米国の属国」発言には、「仏独vs.英米の対立構図」の長い歴史を改めて想起させられます。

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かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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