株式暴落の正体
【ストラテジーブレティン(216号)】
高予測能力AI専門家集団の登場
この株式市場の暴落によって相場の正体が見えた気がする。12月25日、クリスマス暴落となった。日経平均株価は1,010円安、NYダウの下落も12月24日累計では14%と史上最悪に近い下落である。本日(12/26)の日経新聞は、「複合株安に戸惑い、PBR1倍割れは行き過ぎ」との相場コラム(証券部次長川崎健氏)を掲載しているが、的確な分析であろう。「ここまで下げる明確な理由がない。あえて言えば複合不況ならぬ複合株安」とし、コラムは「冷え込んだ心理とバリュエーションの低下でパニックに陥った投資家が売りに走り、掘り出し物を生み出している時に買うことだ」との米著名投資家ハワード・マークス氏の言葉を紹介して締めくくっている。
リーマンショック級の経済悪化を予見しているとは考えられない。現在の日米株価急落は到底ファンダメンタルズでは説明できないと感じられる。とすれば主たる下落要因は市場内部にあるのではないか。トランプ当選後2年間で50%というスピード違反の株価騰勢が続いていた。そのさなかに10月4日のハドソン研究所でのペンス米副大統領の米中新冷戦勃発宣言と思われるスピーチにより、地政学的不透明感が強まった。政治学者でWSJ紙のコラムニスト、ウォルター・ラッセル・ミード氏は「いよいよアメリカと中国は根底からの戦いの時代に入った。経済や市場関係者は、トランプ政権のこの転換を軽視している。国家安全保障が経済に優先する時代に入っていることを過小評価している」と述べ、市場の不安心理を高めた。
その環境下での、AIトレードによる市場のかく乱が大きく効いたのではないだろうか。ファンダメンタルズとは全く関係なく、市場の内部要因が株式暴落をもたらした典型はBlack Mondayであるか、現在との類似性が感じられる。Black Mondayはポートフォリオ・インシュアランスという新種のコンピュータトレーディングによる自動売買が、1日で23%という巨額の自己実現的な株価暴落を引き起こした。今は最先端のAIとデータベースの蓄積により、
あたかも天気予報のごとく予測精度を著しく高めている専門家集団が、市場に多大な影響力を持ち始めているようである。私の友人にも常勝のAI専門家がいる。そうした新規AI専門家集団に対しては大多数の個人投資家や既存のクオンツやトレーディングシステム利用者は、まるで競争力がない。新規AI専門家集団の投資行動が今年に入ってからの異常な値動きを数々もたらし、市場のベテランの定石をことごとく打ち負かし、彼らに大きな損失を与えている。しかしBlack Mondayがリセッションを引き起こすことなく2年で下落を取り戻したように、今回もそうなる可能性が高いのではないだろうか。