上場企業は儲け(=利益)が出るのが当たり前の姿
それは企業の利益や純資産が増えていく仕組みです。企業は様々なビジネスを営みますが、商売の基本は儲けることです。さきほど述べたように、商売で儲けが出るのは、世の中にその商売に対するニーズがあるからで、ニーズのない商売は自然と廃れて消えていきます。日本の営利法人の数は、国税庁の会社標本調査によれば約300万社もあります。廃れて潰れて消えていく企業は星の数ほどあるでしょう。一方、東証に上場する企業は約3800社。日本の会社のうちのわずか0.1%です。ですから、株式市場に上場するまでに育った企業というのは、自ずと淘汰の波をくぐって生き抜いてきた企業、選りすぐりの企業だけであると言えます。よって上場企業は儲け(=利益)が出るのが当たり前の姿です。ましてや日経平均に採用される225社というのは、会社の中のトップ中のトップ、超優良企業なのです。我々が投資対象にしているのは、そういう企業だけだ、ということです。
無論、上場した後も安泰とは言えません。着実に売り上げや利益を伸ばせる企業もある一方、思うように業績が伸ばせない企業もあるでしょう。なかには経営不振で倒産してしまう企業もあるかもしれません。しかし、株式市場に上場している企業全体でみれば、総じて利益を出せる企業のほうが圧倒的に多いのです。(逆に言えばそういう企業しか残りません。これをサバイバル・バイアスといい、上場企業全体≒インデックスへの投資が良い成績を残す理由のひとつです。)
また、単年度だけをみれば大不況や大きなショックに見舞われた場合、上場企業全体で見てもほぼ全滅のような状況もあるかもしれません。しかし、そのような状況は異常であり非常事態ですから、長くは続かず一時的なものです。上場企業全体の業績を長期で見れば企業は利益を稼いでいくという当たり前の結論に落ち着きます。そうでなければその国の社会や経済が成り立ちません。(ですからリーマンショックなどの金融危機やコロナ禍による経済の変調時には金融緩和や財政出動など政策が総動員されるのです。それによって株価は危機で暴落したとしても、その下げをすぐに取り戻し、暴落前の水準にまで戻るのです。結果的に政策総動員はやり過ぎとなり、その後のバブルを発生させる温床となってきました。この話はまた別の機会に。)
企業業績は増益になったり減益になったりしますが、それは前の期と比べて利益の額がどれだけ増減したかという話であって、利益が出ること(黒字)には変わりありません。よっぽどのことがない限り上場企業全体で赤字になることはありません。ともかく企業は利益を出すのが普通の状態です(利益の多寡はここでは問題にしていません)。
企業が稼いだ利益は全額を配当などで払いださない限り純資産に組み込まれます。すると企業のバランスシートが拡大します。企業はそのバランスシートの営業資産を使ってビジネスを行いますので、自然とビジネスの規模も拡大することになります。こうして売上高も資産規模に応じて増えていくことになるのです。仮に利益率(売上高利益率や自己資本利益率:ROE)が一定だったとしても資産規模や売上高が増えるので、利益の額そのものは増加するのです。
企業の営業活動から株価が上がる仕組み
1年目に100の資産を持った企業がその資産を使って100の売上高をあげるとします(総資産回転率は1倍です)。売上高利益率が10%だとすると、10の利益があがります。

この企業が配当を払わず全額内部留保すると、資本は10増え、同時に資産も10増えて合計110になります。

2年目にこの企業は110の資産を使って、同じ総資産回転率1倍のビジネスをおこなうと売上高は110になり、同じく売上高利益率10%のビジネスをおこなうと11の利益があがります。1年目の利益が10でしたから、10%の増益を達成したことになります。
総資産回転率や売上高利益率が変わらないという前提でいけば、自己資本利益率(ROE)についても同じことが言えます。(厳密には財務レバレッジも同じである必要がありますが、ここではそれは無視してください)
実際には企業は配当を払うので、内部留保の分だけ同じ利益率で企業は成長していきます。式で書くとROE×内部留保率、または(同じことですが)ROE×(1-配当性向)となり、これをサステナブル成長率といいます。これこそが企業が自らの力で事業規模を拡大し、利益や純資産を高めていく基本的な構造です。日本企業は稼いだ利益を内部留保して使わないということがよく批判されます。現金のままにして投資などに使わないことは確かに批判される対象になるかもしれませんが、しかし、内部留保自体が悪いわけではありません。繰り返しになりますが内部留保するから企業はバランスシートを拡大し、それによって売上高や利益を増加させていくことが可能になるのです。
【上級者向け:「自社株買いなどで自己資本の増加を抑制してROEを向上させるべきだ」というのが、あまり意味がない議論だというのは前述のことからご理解いただけるでしょう。ROEが一定でも純資産が増えれば利益は増えます。純資産を一定に保ってROEを上げるというのは、結局、利益が増えればいいわけで、利益を純資産で割って求めた「計算上の結果」でしかありません。ただし、ROEは資本効率を測る指標としての重要性が投資家に認知されているので、これを高めていくことは無論、意義があるには違いありません。】
前段で、企業が有する資産の価格や売上高、利益が企業価値の根源だと述べました。株価を測る代表的な尺度である株価収益率(PER)は株価が1株当たり利益の何倍であるか、純資産株価倍率(PBR)は株価が1株当たり純資産の何倍であるか、売上高株価比率(PSR)は株価が1株当たり売上高の何倍であるかを示すものです。したがってこれらの比率(バリュエーション)が高まらなくても分母に当たる利益、純資産、売上高などが増えれば株価は上昇することになります。

実際に過去10年以上、日本株のPERはほとんど変わっていませんが、株価は4倍にもなっています。これは利益(EPS)がやはり4倍近くに増えているためです。
これが企業の営業活動を反映して株価が上昇するメカニズムです。もちろん、利益や純資産の増減は振れ幅を伴い変化するもので、端的に言えば好不調の波があります。ですから株価もそれに応じて上がったり下がったりするわけですが、企業が利益を出し、純資産が積み上がるという構造が根底にあるため、株価の長期トレンドは右肩上がりになるのです。
株式投資は社会に選ばれた企業への投資
ここまでいろいろ述べてきましたが、結局のところ、企業が儲け(利益)を出せるかどうか、その一点が肝であり、カギであります。
それについて言えば、突き詰めて言うと、企業(特に上場企業)は儲けを出すようにできています。星の数ほどある企業の中には廃れて消えていく企業がありますが、上場にまで至った企業は厳しい淘汰の波を生き残って選ばれた企業だけなので、基本的に利益が出るのです。廃れて消えていく企業と、選ばれて生き残る企業を分かつものはなんでしょうか?
それは世の中に必要とされる商売をしているか、社会の要請に適うビジネスであるか否かの差でしょう。社会的ニーズのあるビジネスなら、人々がお金を払ってくれて、企業は利益を出せるのです。社会的ニーズを満たすことがその会社の存在意義になる - 別の言葉で言えば「パーパス」です。
もちろん企業は慈善事業をしているわけではなく、営利法人ですから利益を追求することも大事です。世界最大の運用会社であるBlackRockのラリー・フィンクCEOは「Profit & Purpose」(利益もパーパスも)と掲げました。しかし、同じことを100年前の日本で主張した人がいます。渋沢栄一さんです。彼の表した『論語と算盤』はまさに論語(パーパス)と算盤(利益)です。渋沢栄一さんは『論語と算盤』のなかで、「道徳的な商売がいちばん儲かる」と語っています。つまり、社会の要請に適う商売をすれば利益が出るということです。
繰り返しになりますが、上場企業といえども盤石ではありません。しかし、そこに至るにはいくつもの厳しい過程を潜り抜けているはずで、「社会の要請に適う商売であろう」という一定のスクリーニングは通っている企業だと言えます。そうした企業だけを投資対象としておこなう株式投資は、かなりの確信度でリターンがあがるということは、今日ここでお話したことでご理解いただけると思います。
株価が上がる本源的な理由をもっとたくさん挙げることができますが、今回はこれくらいにしておきます。とにかく「株は上がるものである」ということをご理解いただければ幸いです。
株は上がるものである - 投資の日によせて(特別寄稿)
株価はなぜ上がるようにできているのか - 株価上昇の本源的メカニズム【前半】