グロース市場が低迷する2つの理由と1つの仮説
22日取引終了後に発表された米半導体大手エヌビディアの2-4月決算は前年同期比7.3倍と市場の期待以上でした(5-7月期の売上高見通しも市場予想を上回った)。しかし、翌日(23日)の日経平均株価は39,000円台を回復したものの、好反応は続きませんでした。米国市場では23日はインフレ関連指標である週間の新規失業保険申請者数の減少ならびに米購買担当者景気指数(S&Pグローバル)の上昇によって利下げ時期が後ろ倒しになるとの見方からエヌビディア決算の波及は限られ、米国株は下落しました。
日本株においては企業業績見通しがやや期待外れであったこともありますが、長期金利上昇も株価の上値を抑える要因として働いているようです。10年国債利回りは3月末0.725%、4月末0.870%から直近は1.020%にまで上昇しています。3月末との比較では0.3%の利回り上昇ですが、株価バリュエーションに対する0.3%のマイナス影響は単純計算では、(従前が)PER20倍の銘柄に対しては約6%、30倍は約9%、40倍は12%、50倍は15%と株価下落要因となります。今後も長期金利上昇が見込まれる中では、高バリュエーション銘柄や赤字企業へのマイナス影響はさらに大きくなる可能性があり、バリュエーションの高い成長企業が多いグロース市場が冴えない展開となっている第一の要因として考えられます。
加えて、グロース市場は国内取引が中心の企業が多く、円安ドル高もマイナス影響をもたらしていると考えます。3月末151.33円/ドルに対して5月24日時点で157.07円。約3.8%の円安となっています。輸入企業でなくてもドル建ての価値が毀損されていると考えられます。
まだ仮説の域を出ませんが、もう一つグロース市場にマイナス影響を与えている可能性として新NISAが挙げられます。日本証券業協会の資料によれば1-3月のNISA買付額全体のうち47%を日本株が占めており、これは東証全体の買付額の約3%です。ただし、NISAで買付けられる銘柄は配当利回りが高く、上位10銘柄のうち7銘柄は2%以上の配当利回りでした。無配や配当性向の低い企業の多いグロース市場企業はNISAでは敬遠されそうです。
新NISAのもう一つのマイナス要素として、貯蓄性向を高め、消費性向を低下させる可能性が考えられます。飲食業等の4月の月次売上では既存店伸び率が停滞した企業が多かったように見受けられました。これが一時的な要因であるのかどうか、5月分の発表を注目したいと考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。