小型成長株の不振は、日本の衰退を象徴するものなのか?
先週は、注目度の高かった米国物価指数は、14日発表の米生産者物価指数(4月)も15日発表の米消費者物価指数(4月)も上振れすることなく、ほぼ市場予想と同じであったことが株式市場において好感されました。加えて先週発表された景気指標(小売売上高、住宅着工件数、鉱工業生産、景気先行指数)がいずれも市場予想を下回ったことからFRBの利下げ期待が再び強まり、債券利回りの低下によって株価を押し上げる構図となりました。ただし、FRB高官は利下げには慎重な発言を継続しており、今後もインフレ関連指標の発表時には神経質な動きが予想されると思われます。
米国株を押し上げているもう一つの要因として好調な企業業績が指摘されますが、「マグニフィセント7(「M7」)」など特定企業への依存度が高まっています。(日経報道によれば)24年1-3月期のアナリスト予想ではS&P500全体の純利益は前年同期比6%の増益となる見込みですが、7社を除外した場合は2%程度の減益になるとのことです。22日発表予定の「M7」の中心ともいえるエヌビディアの2-4月期決算が注目されていますが、期待感が大きいだけに市場を(上にも下にも)揺るがす可能性が考えられます。
日経平均株価のアナリストコンセンサス予想EPS(IFISコンセンサスをベースにTIW集計)を決算前(4/5時点)と決算後(5/17時点)で比較しました。新・今年度(24年度)は従前予想を▲2.9%(1958.44→1902.37円)、新来年度(25年度)は従前予想を▲1.1%(2183.88→2159.91円)下回っています。概ね予想の範囲と言えなくもないですが、長期金利の上昇も相まって、日経平均株価の妥当株価レンジは下方にシフトしました(上限値で前週27,628円→36,450円)、実勢株価に対して再び大きく乖離が生じています。それにもかかわらず、日経平均株価が堅調にある理由としては次のようなものが挙げられます。1)米国株の騰勢が色濃く反映されていることがまずは挙げられます。2)国内の消費者物価指数の高止まりにより実質金利がマイナスとなっていることから相対的に資産価値が上がり、株価バリュエーションの上昇(=リスクプレミアムの低下)が生じている可能性が考えられます。3)円安によってグローバル企業の価値が円ベースで膨らんでいることも挙げられそうです。外国人持株比率が低く、内需型企業の多い東証グロース市場(指数)が年初来安値圏にあることがそれを逆の面で表しているようにも見えます(円安は価値の減少)。
中小型成長株には年初からの下落によって割安感が強まっているので期待したいところですが、円安トレンドが終焉しないと本格反騰は難しいのかもしれません。悩ましいですね。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。