米長期金利上昇は米国(ドル)への信認低下か?
19日に米長期金利(10年債)は一時5%台を付けました。同日のパウエルFRB議長の講演において、追加利上げのカードを温存したとの見方から投資家がリスク回避の動きを強めたとの市況解説がありましたが、果たしてそうでしょうか?
パウエル議長は講演でタームプレミアムに関して言及をしました。長期金利は主に政策金利の見通しとタームプレミアムで構成され、タームプレミアムは将来リスクを反映していると考えられます。議長は、米財政赤字への関心の高まりや量的引き締め(QT)などが寄与している可能性を示唆しましたが、もしかしたら、それだけではないかもしれません。米国への信認そのものが低下しているリスクを孕んでいるのかもしれません。
米下院議長の解任と新議長を選出できない政治の混沌もあげられますが、18日の国連安全保障理事会の米国の拒否権発動(イスラエルとハマスの衝突を巡り、パレスチナ自治区ガザへの援助提供を可能にするため、紛争の人道的な一時停止を求めるブラジルの決議案を米国が拒否権を行使した)は国際紛争における仲裁者の立場を放棄したと見做されるものと言えそうです。仮にイスラエル/ハマスの停戦合意がなされたとしても、それを主導するのは中東諸国に加えて、ロシア・トルコ、中国などが主体になりそうです。その結果、中東における米国のプレゼンス低下は避けられないものと想像します。
米国への信認低下は基軸通貨としてのドルの地位を貶める可能性が考えられます。特に中東でのプレゼンス低下は原油取引における決済通貨としてドル離れを加速させることが懸念されます。ドルの優位性が低下することによって、これまで市場があまり問題視してこなかった双子の赤字(財政赤字・貿易赤字)に再び関心が向かう可能性も長期的には懸念されます。
冷戦終結後からの米国1強時代が確実に終焉に向かいつつあり、新たなパラダイムに世界が向かうプロセスが加速しつつあるように見えます。不安を煽るようなつもりではありませんが、予測不可能な時代に突入する可能性を意識しておきたいと思います。
さて、目先の株価はイスラエル/ハマス情勢によって一喜一憂する状態が続きそうです。国内では日銀の金融政策の再修正を窺う動きもあります。株式市場は一時的に深押しする展開もあるかもしれませんが、値下がりが特に厳しかった成長株の押し目を拾う局面と考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。