ジャクソンホール会議通過による楽観もそろそろ終わりか?
先週の株式市場はNYダウ工業株が(前の週から)490ドル、日経平均株価が1,086円と大きく上昇しました。ジャクソンホール会議を通過したことによって、市場の不安が後退したことに加えて、足もとに発表された米経済指標が弱含みであったことにより、米国債利回りが低下したことが要因でした。
8月29日発表の米雇用動態統計(JOLTS・7月)においては非農業部門求人件数が882.7万件と(958.2万件から916.5万件に)下方修正された6月分を下回り、21年3月以来の低水準でした(市場予想は950万件)。同日発表のコンファレンスボード消費者信頼感指数(8月)は、106.1と前月から▲7.9pt低下しました。30日発表のADP雇用リポート(8月)は非農業部門雇用者数が市場予想を下回りました。
1日発表の米雇用統計(8月)は非農業部門雇用者数が前月比+18.7万人と予想(+17万人)を上回ったものの、6月、7月分が合計で11.0万人下方修正されたことから実質的には軟化しました。また、失業率は前月の3.5%から3.8%へと上昇しました(予想は3.5%)。
経済指標の軟化による米国債利回り低下は株式市場にはポジティブ要因ではありますが、一方で米経済は軟着陸するとの楽観が強く、景気後退の可能性は忘れられています。また、31日発表の7月の米個人消費支出物価指数が+3.3%と3カ月ぶりに上昇したこと(6月+3.0%)は殆ど顧みられませんでした。
日本株は、米国株式市場の上昇と、円安が追い風となりましたが、国内の経済環境が特に好転している様子は見られません。7月の鉱工業生産指数(31日発表)は2カ月ぶりにマイナスとなり、基調判断が「生産は一進一退で推移している」と下方修正されました。また、31日発表の中国製造業購買担当者景気指数(8月)が5カ月連続で50を割ったにもかかわらず、前月より+0.4pt上昇したことを市場はポジティブに好感したようです。
ジャクソンホール会議後の悪抜け、いいとこ取り、がいつまで続くのかは分かりませんが、日経平均株価が6月高値(33,772円)を更新するには何より輸出の回復が求められると考えています。貿易統計8月上旬分の速報でも輸出は僅か(▲0.3%)ではありますがマイナスにあります。円安もガソリン高をはじめ家計への悪影響が強まっています。5日発表の家計調査(7月)では実質消費支出は前年比▲5.0%と大幅な下落率となりました。
今週は、目立った統計発表はなく、方向感に乏しい展開が続くと思いますが、市場の楽観はそろそろ一服すると考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。