企業業績は新聞が囃すほどではない、米国市場の動向によっては日本株は大きく調整も
先週は、フィッチ・レーティングスの米国債格付けの引き下げ(1日)、米財務省の国債発行増の発表(2日)を切っ掛けとして米国株式市場が下落しました。それに伴い日本株は米国株下落を上回る大幅下落となりました。2日・3日の2日間の日経平均株価の下落幅は1,317円にも達し、32,000円も一時下回りました。
日本株の下落幅(率)が大きかったのは、1)春先のバフェット氏発言の効果、東証の市場改革への期待などからやや割高な水準にまで買われていたこと、2)日銀のYCC修正を切っ掛けに金利の先高観が広がったこと、3)市場の期待が高かった第1四半期決算がそれほどでもない可能性(斑模様ですが)に留まりそうなこと、4)中国経済の不振が際立ってきたこと、5)原油や食料など資源価格が再び上昇基調にあり、円安デメリットが再認識される可能性が出てきたこと、6)実質賃金・消費支出のマイナスが続いていること、などが挙げられます。
米国株は7日に大きく切り返しましたが、利上げが最終局面にあることと、米国景気の強さを背景にリセッション懸念が後退したことが背景にあります。30年債など超長期債が上昇しており、短期債利回りが長期債利回りを上回る「逆イールド」も解消に向かっていることをポジティブに捉える向きもあるようです。
それとは対照的に日本株は、中国経済の停滞の影響を強く受けると考えられることと、国内の需要不足が懸念材料として台頭しています。
7月31日発表の中国製造業購買担当者景気指数(7月)は、49.3と4ヵ月連続50を下回りました。非製造業は51.5と50を上回っているものの前月比▲1.7ptの減少となっています。中国経済の弱さは物価種数に表れており、9日発表の7月の中国消費者物価指数が注目されます。
日本では、8日発表の6月の家計調査において、消費支出は前年同月比で実質▲4.2%減少しました。毎月勤労統計の実質賃金(6月)も同▲1.6%減少しています。米国債利回りの上昇によって円安が再び進行している中で、原油価格や食料などの国際市況が上昇しつつあることもマイナス材料として捉えられそうです。
期待された企業業績においても1Q決算は新聞が囃し立てるほどは好調とは言い難い様相です。TIWで集計している4日現在の日経平均株価のコンセンサス予想EPSは、10週前(5/26)との比較では、今期予想ベースで+1.8%、来期+0.4%、再来期+1.7%と上乗せはごく僅かです。
今週は、7月の米消費者物価指数(10日)、生産者物価指数(11日)の発表が予定されています。どちらもコア指数では前月比横ばいですが、総合指数で前月から上昇すると見られております。もし、それによって米国株市場が大きく反応するようであれば日本株も影響は避けられないと考えられます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。