日本株全体は依然として弱含みを予想、ただし成長株は絶好の拾い場か!
注目されたパウエルFRB議長の議会証言(7日上院・8日下院)は、「(今後のデータ次第では)利上げのペースを加速する必要がある」、「最終的な政策金利の水準が従来の予想よりも高くなる可能性がある」と事前の予想以上にタカ派的であったことから、7日の米株は大幅下落し、米2年国債利回りは一時5%に達しました。
さらに、8日に傘下にシリコンバレーバンク(SVB)を擁するSVBフィナンシャルグループが資本増強を発表したことを契機に、信用不安から9日の米株市場は大幅下落となり、米連邦預金保険公社(FDIC)がSVBの経営破綻を発表した10日も大幅続落となりました。
12日には資産規模全米29位のシグネチャーバンクも破綻しましたが、同日に米財務省・FRB・FDICの3者がこれら2行の預金を全額保護する措置を共同声明として発表したことによって週明け13日の米国株は下げ止まりつつあります。ただし、米国債利回りは質への逃避等から一時2年債は4.0%台に、10年債は3.4%台へと急低下しました。
米雇用関連の経済指標では、1月の雇用動態調査(JOLTS・8日発表)において非農業部門求人数は前月改定値から41万件減少しましたが、1082.4万件とまだ高水準にあります。週間の新規失業保険申請件数(2/26ー3/4・9日発表)は21.1万件と前週比2.1万件増加しましたが大きなインパクトを与えるものではありませんでした。10日発表の2月の雇用統計では非農業部門就業者数は市場予想(20万人強増)を上回る31.1万人増となった。ただし、失業率は3.6%(1月・3.4%)と上昇したことに加えて、平均時給は前月比0.2%増と予想(0.4%増)を下回っており、やや見方の分かれる内容でした。
パウエル議長のタカ派発言直後は、21-22日のFOMCにおいて市場では利上げ幅が0.5%に拡大する予想も強まっておりましたが、SVB破綻に端を発した銀行に対する信用不安により、利上げは見送られるとの見方も出ています。14日発表の消費者物価指数の内容によって市場はまた揺れる可能性も考えられます。
米国株は13日には切り替えしたものの、日本株は微妙な展開が予想されます。米国債利回り低下に伴って円高が進行しており、ドル円は一時132円台に達しました。米金利上昇による円安が先週の株価上昇をけん引していただけに為替の逆回転が重荷となりそうです。
日経新聞の報道(7日)によれば、23年3月期の主力企業32社の円安による増益効果は3兆円と試算されておりますが、24年3月期には大きく縮小することが予想されます。
8日発表の1月の経常収支は1兆9766億円の赤字となり、赤字幅は前年同月の3.4倍となりました。7日発表の2月上中旬の貿易統計では貿易赤字は前年同月比68.6%拡大しております。輸出は金額ベースで前年同月比7%増でしたが、為替レートを考慮すれば数量指数は依然としてマイナスとなる可能性が高いと考えられます。
FOMC通過で米国株が一時的に浮揚したとしても日本株全体の見通しにはまだ積極的になれないと考えます。ただし、為替やマクロ経済への影響の少ない高成長株にとっては絶好の拾い場(=チャンス)となる可能性があります。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。