株式市場が堅調なのは、流動性供給と金利上昇過程による一時的な債券市場からの逃避
先週の米債券市場では1月の消費者物価指数、小売売上高、生産者物価指数などの強い経済指標発表を受けて、利上げ長期化の懸念から国債が下落(利回り上昇)しました。米10年国債利回りは17日に一時3.9%台にまで上昇しました。米国株市場も13日をピークに頭が重い鈍化傾向を示しています。
14日発表の米消費者物価指数(1月)は前年比+6.4%と12月の+6.5%からは低下したものの、市場予想(+6.2%)を上回りました。15日の米小売売上高(1月)は前月比+3%と3カ月ぶりにプラスとなりました(市場予想は+1.8%)。16日の生産者物価指数は前月比+0.7%(市場は+0.4%)と7カ月連続で上昇し、インフレが依然として強く残っていることを示しています。
またFRB高官のタカ派的な発言も続きました。「我々の(インフレ鎮静化の)仕事はまだ終わっていない」(14日・NY連銀のウィリアムズ総裁)、「これまで予想していたよりも長い期間、利上げを継続する用意がある」(14日・ダラス連銀ローガン総裁)。16日にはクリーブランド連銀のメスター総裁が前回のFOMC(1/31-2/1)で0.5%の利上げを主張していたことに言及。セントルイス連銀のブラート総裁も大幅利上げを支持していたことを表明しました(ただし、この2名の総裁は23年は投票権はない)。市場は3月、5月に加えて6月のFOMCでも利上げが継続するという予想に重心が傾きつつあるようです。
こうした消費関連の指標で強い数字が出てくることに対しては、昨年のクリスマス商戦が例年より前倒しされたことから11~12月が盛り上がりに欠けたことによって、季節調整で1月が押上げられたとの見方もあります。債券市場が引き締めの長期化を織り込んでいるのにも関わらず、株式市場が比較的底堅いのはこうした見方の違いによるのかもしれません。いずれにしても2月の経済指標で明らかになると考えます。
今週は、22日:FOMC議事録要旨、24日:1月の個人消費支出(PCE)物価指数が注目されています。
日本株はやや軟調な米国市場の影響を受けつつも、円安の進行(17日:135円台/ドル)から輸出関連株や割安株など底堅く推移しています。24日に日銀総裁・副総裁候補に対して衆議院での所信聴衆が予定されております。新総裁が直ちに政策変更を行うとは考え難いですが、現状の長期金利操作から年後半には転換すると予想するエコノミストが大半を占めている模様です。
16日発表の国内貿易統計では貿易赤字が3兆4,966億円と比較可能な1979年以来で過去最高となりました。原油などの輸入価格の上昇に加えて、輸出数量が大幅に減少(▲11.5%)したことが影響した模様です。欧米などの経済減速の影響が表れているとの見方もあり、今後の推移が注目されます。今後、貿易統計には注意を払う必要があるかもしれません。
アナリスト・コンセンサス予想も下方トレンドが続いており、株価が上昇トレンドに向かうとは考え難いと思います。
シティグループのストラテジストによる「今年の株高は日本、欧州、中国の中央銀行による1兆ドル超の流動性供給が招いた」というレポートが注目されたようです。米国の通貨供給量(M2)は22年12月に前年同月比▲1.4%と減少しました。月次ベースの前年比減少はデータの比較可能な1960年以降では初めてとのことです。難しい局面がまだまだ続きそうです。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。