“成長”するということの意味!について思うこと
今回はいつもとは嗜好をかえて日頃から感じていることを書かせていただきます。
やや長文で失礼いたします。
今年も残すところ僅かとなりました。2月のロシアによるウクライナ侵攻や米FRBの利上げなど、株式市場にとっては厳しい1年ではありました。主だった日本株投信の多くがTOPIXを下回るパフォーマンスで終えそうですが、皆様の運用成績はいかがだったでしょうか?
年前半は米金融引き締めを受けて厳しい環境が続きましたが、夏場から11月までは極めて好調であったのではないでしょうか。しかし、12月に入ってからはまた様相が急変している状況にあると思います。
小職は、常に成長企業押しのスタンスで通しておりますが、馬鹿の一つ覚えみたいにいつも“成長株”と申し上げていることについて、直近に感じたことも併せて少し纏めてみたいと思います。
米国では2022年の前半から「Quiet Quitting(静かなる退職)」というキーワードが20~30代の世代で流行していると聞きました。
「会社はクビにはならない程度に必要以上には一生懸命に働くことをやめる」ことを提案する活動であり、「仕事は人生ではない」「仕事の成果だけがあなたの価値を決めるのではない」という考えがYouTubeなどにアップされ、共感を集めているようです。
米国の人手不足が解消されない要因の一つとして、もしかしたら、一生懸命に働かない労働者の増加にあるのかもしれません。
しかし、こうした傾向は、2000年代に入ってからデフレ経済に陥った日本においては同様のことが生じているように見えてなりません。
話は少しずれてしまうかもしれませんが、12月中旬にスキーに行った際のエピソードをいたします。某県の或る新幹線駅の構内にあるお蕎麦屋さんでの話です。
そのお蕎麦屋さんの入り口には、「2週間以内に海外渡航をされた方の入店はお断りします」と大きく看板に書かれていました。ずいぶん前に設置されたものがそのままになっているだけなのかもしれませんが、思わず店員さんに「これってインバウンドの外国人旅行者は入店お断りってことですか?」と聞いたら、その方は看板を少しの時間見ていましたが、こちらの質問には何も答えてはくれませんでした。
お店のメニューに「選べる日本酒・飲み比べセット」というのがありました。6種類から3種類980円・4種類1380円選ぶことができます。ちょっと待てよ、4種類の方が割高なのはなんで?と思いましたが、敢えて店員さんには聞きませんでした。
そのお店では7~8人の従業員の方が働いていましたが、その方々の全員が小学生でもできる計算が分からないということはないと思います。あくまでも私の想像ですが、店主(オーナー)に意見を言い難い職場環境だろうと思います。間違いを指摘して店主に嫌われるよりは、黙って何も言わずに自分の仕事だけをしていればよい。
大袈裟ですが、日本の縮図を見たような気がいたしました。
デフレによって一生懸命に働いても昇給は限定的であり、成長意欲の強い若手はより好条件を求めて転職してゆきますが、中高年の転職機会はまだまだ限定的です。しかし、他方では好成績を出さなくても、決められた仕事をそれなりにこなしていればクビになる心配は殆どありません。
ワークライフバランス、働き方改革。こうした取り組みそのものを批判する意図は全くありませんが、一生懸命に働く意思のない方にとっての心強い援軍になってしまっているようにも感じます。日本の労働生産性が改善しないのは、技術革新の問題だけではなさそうです。
小職は20年以上前から「解雇規制を緩和して、労働市場の流動化を高めるべき」という主張をしておりますが、そうした改革は余程危機的な状況に日本が陥らない限りは生じないだろうと最近は思うようになりました。何故なら、一生懸命に働きたくない人の方が既に多くなってしまっている可能性があるからです。
この話と“成長企業に注目すること”との関係についてお話しいたします。
労働慣行や組織の構造は、戦後から大きくは変わってはいませんが、現在は機能しなくかった制度・慣行も、高度成長期には機能していました。理由は単純です。経済が成長することによって昇進できるポスト(椅子)が増えたからです。
現在はどうでしょうか? 経済が停滞することによって、ポストは増えていません。加えて、長寿化によって退職年齢が引き上げられて、椅子に座ったままの人が増えています。大手企業であっても業績が拡大しない会社では、椅子に座れる可能性は高くはないかもしれません。
成長する企業においては、業績・業容の拡大によって椅子が増えてゆきます。椅子に座れるチャンスが見えているのであれば一生懸命に働く人が多いのではないでしょうか?一生懸命に働く社員が多い会社はさらに業績が拡大して、新しい椅子が用意されるという好循環が描かれるのではないでしょうか?
あまり悲観的なことを申し上げたくはありませんが、政治や行政が日本をドラスティックに回復させる可能性は全く期待をしておりません。
可能性があるとするならば、新興企業、ベンチャー企業に代表される成長企業群です。そうした企業群の中でも成長を継続できる企業はひと握りかもしれません。
しかし、こうした企業群が増えることによって、少なくとも成長意欲の強い人材を受け入れる場所が供給され、それらが集合離散しつつ新たな成長の場が生み出されると考えます。成長企業の中に日本の明るい未来を見出したいと考えます。
小職は今年(2022年)に還暦を迎えましたが、まだ自己成長は可能と考えております。
明年も成長を目指して参ります。
最後までお読みいただき有難うございました。
2023年が皆さまにとって素晴らしい年であることを祈念しております。
どうぞ良いお年をお迎えください。
藤根靖昊
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。