12月のFOMCまでは株式市場は下げる確率が高い
注目を集めました11月30日のパウエルFRB議長の講演において、引き締めペースを緩めるのは「早ければ12月の会合になる」との発言が緩和的と受け止められたことから、同日のNYダウ平均は737ドルの大幅高となりました。10月の米雇用動態調査(30日)では非農業部門求人数は前月の改定値を35.3万件下回る1033.4万件となり、市場予測(1050万件)をやや下回ったこと。11月のADP雇用統計(30日)も非農業部門雇用者数前月比が市場予測を下回ったこと。こうした弱い経済指標も株価を押し上げた要因であったと考えられます。
しかしながら、議長の基本的なスタンスが変わったわけではなく、結果的には市場の反応は過剰であったと言えそうです。
11月の米ISM製造業景況感指数(12月1日発表)は49.0と好不況の境目となる50を割り込みました(10月50.2・市場49.8)。10月の個人消費支出(PCE)物価指数(1日発表)は前年同月比6.0%と9月(改定値6.3%)より低下しました。新規失業保険申請件数(11/20-26週・1日発表)は22.5万件と前週改定値より1.6慢人減少し、市場予測(23.5万件)も下回りました。こうした経済にとってマイナスとなるような指標は国債利回りをやや押し下げる効果はありましたが、株式市場にとってはプラスのインパクトは極めて限定的でした。
2日発表の11月の米雇用統計においては、非農業部門雇用者は前月比+26.3万人と市場予測(20万人)を上回りました。5日発表の11月のISM非製造業総合景況指数は56.5と前月(54.4)から上昇し市場予想(53.5)を大きく上回りました。こうした底堅い経済環境を表す指標に対しては市場は敏感であり、5日のNYダウ平均は482ドルの大幅安となりました。
同日の国債利回りも上昇しましたが、絶対値の利回り水準で見るならばダウ平均が5日とほぼ同じであった11月29日に比べれば低くなっています(29日:3.729%・5日3.579%)。
長々と列挙しましたが、弱い経済指標が出た時の株価のプラスの反応が小さくなってきている反面、強い経済指標が出た時のマイナスインパクトが大きくなっているように見えます。市場は金融引き締めそのものよりも、それに伴う景気停滞を懸念し始めているようにも見えます。利上げ停止時期(来春頃??)が具体的に見えてくるまでは株式市場は重苦しい展開が続くのかもしれません。今週の11月の米卸売物価指数(9日)、米消費者物価指数(13日)は警戒が必要です。市場予想を下回る弱い数字には反応薄で、強い数字が出た時は下押しが考えられます。
13-14日にはFOMCが予定されており、政策金利予想に高い注目が集まりそうです。直前の市場の織り込み内容にもよりますので、現時点では何とも申し上げにくい面がありますが、ターミナルレートが5.00%~5.25%程度に納まればひとまずは安心感が出るようにも感じます。
日本株はTIWで集計している日経平均株価のアナリストコンセンサス予想EPSが減少傾向にあります。それに伴って日経平均株価の妥当レンジの下方トレンドが生じています。こうした下方トレンドは本決算(23年4月下旬~5月中旬)の頃まで続くように思われます。米金融引き締めの停止時期が見えてくるタイミングにもよります、しばらくは下押し圧力の強い相場が続きそうです。
成長株(特にグロース市場)は足もとでは、米国債利回りの上昇と10月から11月にかけて株価が上昇したことの反動から売られていますが、FOMC通過後は金融引き締め(の程度)への織り込みが終わることから再び注目されると考えております。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。