寿命延伸、資産延伸、そして企業延伸に向けて
・4月に、フィデリティの野尻哲史氏(フィデリティ退職・投資教育研究所長)の話を聴いた。テーマは、「人生100年時代を生きるお金との向きあい方」であった。人生の長寿化に備えて、資産の長寿化も考えてみたい。
・100年も生きられるか。たぶん無理だろう。でも、私の場合、母は95歳、叔父も92歳まで生きた。身近にそういう人がいるのも事実である。これまで、90歳まで生きるという気持ちで生活してきた。
・それまでお金はもつか。国の年金が実質的に減額の方向に向かうのは明らかである。年金財政が今のままでは苦しくなるからである。貯蓄は十分か。貯めてきたつもりであるが、おろして使うとなったら30年はもたない。
・40年働いて、あとの30年を蓄えで暮らそうといのは、土台無理な話である。90歳まで生きるなら、80歳まで働く必要がある。75歳以上の後期高齢者になると、病気になる人も増えてくるから、元気なうちは働くというのが妥当であろう。
・では、そんな高齢者に仕事はあるのか。元気であれば、仕事はありそうである。しかし、どこで働くにしても、1)誠実に、2)親切に、3)丁寧に、4)できるだけテキパキ、と活動する姿勢が問われる。一方で、ダイバーシティ(多様性)を認めないようなところでは働きたくない。
・お金はいくか必要か。これは毎月いくらで暮らすかという覚悟に依存する。いい暮らしをしていた人は、その水準をなかなか落とせない。しかし、前の生活年収との比率である目標代替率を定める必要がある。70%か50%か30%か。年をとると通常の生活費は減っても、医療費が増えてくるので、ここをよく考えておく必要があると野尻氏はいう。
・生活費として年間500万円を望めば、今後30年として、合計1.5億円が必要である。これは大変である。年金が200万円×30年あるとすると、0.6億円はカバーされるが、残りの0.9億円は自分で何とかする必要がある。
・これが80歳まで働けば、あと10年であるから、300万円×10年=3000万円となる。これなら、なんとかなりそうである。とすると、80歳まで働くことが大事である。まずは健康を維持すること、そして継続的にできる仕事を見出すことである。
・野尻氏は、老後は「使いながら運用する時代」であると提言する。若者は、年収の12%を資産運用にまわして、資産形成に力を入れるべし、と強調する。年3%で回る投信はいろいろあり、非課税型の口座(積立NISAなど)を使うともっと効率がよい。
・そして、老後に資金が必要になってきたら、運用を続けながら「一定の比率」で引き出すことがカギであると主張する。例えば、総運用額の4%を引き出し、残りを継続的に3%のリターンで回せるなら、実質的な目減りは1%である。これが手持ちの資産を長持ちさせるコツである。
・年金で足らない分として毎月13万円引き出し、15年間使うと2340万円の貯蓄がなくなってしまう。これが4000万円を運用するとして、年3%でまわしながら、手持ち資産の4%を引き出すとすると、資産の減少額は累計600万円で済む。ずいぶん違ってくる。
・野尻氏は2つの点を強調した。1つは、アセット・アロケーションではなく、アセット・ロケーションが大事であるという。アセット・アロケーションは資産配分の比率を意味するが、それよりもまず資産をどこにおくか、ロケーションをよく考えよという意味である。きちんと増やすという意識を持つことが重要である。
・2つめは、デキュミュレーション(取り崩し)をよく考えよという。野尻氏は、これを単なる資産の取り崩しではなく、資産活用と名付けている。運用しつつ、どう取り崩してバランスを図っていくか。これが長生き時代の「資産延伸」ともいえよう。
・フィデリティのアンケート調査によると、現役世代は66歳での退職を希望しており、80代前半までの人生を想定している。また、投資をいつまで続けるかという点では、1)75歳までが40%、2)できるだけ長くという人が37%を占めた。
・運用を続けながら取り崩しを必要とする世代を、野尻氏はD世代(Decumulation Generation)と名付け、そのD世代にとって重要な資産活用のコツを示唆する。資産運用のパフォーマンスは年によって変動する。その時、毎年定額で引き出すとして、15年の長期でみると資産は大幅に減ってしまう。
・これを定率で引き出せば、パフォーマンスがよくて資産額が大きい時は、少し多めに取り崩せ、パフォーマンスが悪くなって資産額が減った時には、引き出し率が同じなので、引き出し額はその分減ってくる。パフォーマンスが悪い時は、少し慎ましく暮らす必要があるということを意味する。その方が、運用額を多く維持できるので、パフォーマンスが良くなった時の取り戻しも多い。ひいては、長い期間でみると、総額の運用資産を多めに確保できる。
・現実の年間パフォーマンスを当てはめてみると、4000万円を毎年160万円(毎月13万円)ずつ引き出して、残り分を運用した時の資産残高は、15年後で、a)いい時で2680万円、厳しい時で960万円であった。一方、引き出し率4%で対応した時には、15年後の資産残高は、b)いい時でも悪い時でも2480万円であった。
・このように、引き出し率をよく考えて、資産の減り方をコントロールするという話は大いに参考になる。私も年間4%で取り崩すことをベースに、90歳まで生きようと思う。そして、投資家としての運用は、80歳まで続けるつもりである。
・さて、みなさんはいかがでしょうか。そして、皆さんが働く企業はどうか。次の30年間、持続的成長が維持できるだろうか。「企業延伸の条件は何か」を改めて問いたいと思う。