投資におけるAIの活用

2018/04/16

・今年1月に「AI/フィンテックは運用業界に何をもたらすのか」というセミナーが日本証券アナリスト協会にて催された。その中の話で、筆者が参考にしたい点をいくつか取り上げて、AIの可能性について検討したい。

・NTTデータシステム技術の和田芳明氏は、まず投資家のタイプに注目する。相場の短期的な変動に注目するトレーダーと、投資家の長期的なパフォーマンスに注目するインベスターでは、求めるデータに違いがあり、AIの利用方法も異なってくる。

・株式投資においては、企業のリスクに関わる予兆(シンプトン)をいかに見出して評価するかが重要である。リスクにはポジティブな面とネガティブな面があり、それをヒト(投資家、ファンドマネージャー)がいかに見抜いていくかが問われる。

・データには、構造化されたデータ(財務データや統計データなど)と、非構造化されたデータ(テキスト、イメージ、動画など)がある。そのうち、非構造化データはこれまであまり分析されてこなかった。この領域にAIテクノロジーを応用して、投資判断に役立つ情報を手に入れようとしている。

・データには、数値化されたものと数値化されないもの(画像、文章)がある。また、データには定形型なものと非定形型なものがある。これらを縦軸、横軸としたマトリックスの中で、とりわけ非数値型・非定形型データにAIを利用しようとしている。

・では、非構造化されたデータをどのように分析するのか。1つは何らかの制度、仕組みを通して、構造化されたデータとして公表されるようになれば使いやすくなる。そうではない文字や音声によるニュース、企業トップの会見映像などを、AIを使って分析する。AIによる自然言語分析やAIによる表情などの画像分析がその手法であろう。

・さて、そこから何が読みとれるのであろう。投資に役立つ情報が本当に得られるのであろうか。野村アセットマネジメントの工藤秀明氏は、新たな情報をいかに引き出すかという点で、AIの応用を試みている。

・フェアディスクロージャーのルール変更や、投資や企業経営の短期指向を避けるために、企業の開示情報は一部後退している。例えば、半導体のBBレシオ、東京エレクトロンの受注額、電通、ヤマダ電気、オリエンタルランドの月次開示などが終了となっている。

・アナリストのカバレッジも十分でない。3700社の上場企業に対して、セルサイドのアナリスト数は450人前後、アナリストレポートの出るカバレッジも1100社前後である。もっと情報がほしいと思う。これまでの情報を別の角度から分析して、新しい情報を引き出したいとニーズは高まっているといえよう。

・株式運用おいて、テキスト情報を活用する場面を考えてみよう。調査に当たっては、サーチとリサーチがある。また、データドリブン系のクオンツ分析と企業を個別に調べるボトムアップ系のファンダメンタル分析がある。そこから得られる情報をポートフォリオマネジメントに活かしていく。

・ファンドマネージャーにとって、セルサイドからアナリストレポートが発行されても、それを逐一詳細まで読んでいく暇はない。何らかのトレンドや特性、重要なインプリケーションが素早く手に入るならば、その後の活用もスムーズに進む。そこに、自然言語処理技術の応用が考えられる。

・工藤氏はアナリストレポート(AR)の実証分析を試みた。ARのレーティング変更のロジックをテキスト情報としてAIの分析にかけるようにした。単語ベースでポジティブな言葉、ネガティブな言語を抽出し、それをスコアとして利用する。

・また、投資判断の変更前後でのセンチメントスコアを作成して、それと業績見直しとの関連性、レーティング変更の影響度を分析している。うまく活用すると、株価面でも超過収益の違いとなって表われるので、こうした分析は一定の効果を有するとしている。

・1)今まであるデータが使いこなせていない。2)データと認識されていなかったものが、データとして活用できる。そこにAIテクノロジーを応用する。投資の場面では、テキストデータが中心で、画像データの利用はまだ十分でない。画像のうまい活用法はあるのだろうか。画像のDL(デープラーニング)がアセットマネジメントでどのように活かせるのかは今後の課題であろう。

・京都大学の加藤康之教授は、AIが資産運用のビジネスモデルを着実にかえていくとみている。1)既存業務の自動化(ロボット化)、2)データ利用の範囲の拡大(ビックデータ、テキストマイニング)、3)運用モデルに関する更新の自動化(DL等による学習効果)などが貢献するからである。

・データ利用の範囲拡大では、1)テキスト情報の数値データ化、2)BDによる市場情報の集約(センチメントインデックス等)、3)企業の非財務情報の収集評価(ESG、ニュース、SNS等)がある

・これらはFM(ファンドマネージャー)の投資判断を効率よくサポートする。しかし、それらの情報が、直接パフォーマンスの向上に寄与するかどうかは、やはり、FMの能力に依存する面が強いという見方をとっている。

・AIを活用して、1)他者より優れた分析と予測ができるか、2)市場にまだ折り込まれていない情報を独自に使えるか、3)これによってαを生み出すことができるかどうか、が勝負である。

・筆者の考えでは、短期の運用においては、AIが活用できる場面は増えそうに思える。しかし、長期になればなるほど、非財務情報、無形資産の影響が高まってくる。それらは非定形型の非構造化データなので、AIですぐに分析予測できるとは思えない。

・かといって、ヒト(FM)の判断が、非構造化データの分析でとりわけ優れているともいえない。つまり、AIの活用ができる領域では、①ヒトに代替する部分がかなりあり、②ヒトをサポートする領域も増えてこよう、③場合によっては、ヒトの能力を超えてくるので、そこに特化すれば、ヒトを上回るαを出すことができよう。運用における「AIロボット型FM」が本格的に登場してこよう。

・しかし、企業経営の意思決定は、ヒト(経営者)が行っている。経営環境も刻一刻と変化する。その中で、長期の投資をいかに実践していくか。AIの支援を受けつつ、今後ともヒトの果たす役割は大きいといえよう。AIに負けない投資家ではなく、AIを仲間にした投資家として活動したいものである。

株式会社日本ベル投資研究所
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