AIの活用をみる視点

2018/04/09

・AIの新たな実用化が始まっている。その応用研究は熾烈を極めており、新たな実用研究を行い、プログラムを自ら書き下ろせる人材の価値は飛躍的に高まっている。現在は3回目のAIブーム期にある。東大の松尾豊准教授の話を聴いたので、その骨子を投資の視点で整理してみる。

・今はITをAIと呼び変えるくらい、AIという言葉が幅広く使われている。自然言語をマシーンラーニングで検索や分析に応用していく方法は、教育、医療、金融の分野で使われている。IBMのワトソンもその領域である。

・しかし、もっと画期的な分野が画像認識である。ヒトの目の役割を果たすように、画像や映像を認識して、運動や行動を習熟し意味を理解していく。この画像認識のエラー率が、ディープラーニング(DL)の技術で大幅に低下しており、すでにヒトのレベルを上回っている。画像認識とロボット(制御機械)の組み合わせで、強化学習のスピードが上がっている。上達がものすごく早くなっているのである。

・従来、子供が普通にやることを、ロボットにさせようとすることが最も難しいと言われてきた。例えば、積み木を積むことがすいすいできなかった。それが、画像認識ができるようになったことで、AIロボットで一気にできるようになった。自転車にもバランスをとってすぐに乗れるようになってきた。

・生物において、目の誕生がどれだけ重要であったか。進化の過程で光を感じ、目が見えるようになって、目を持つ動物の発展が飛躍的に増大した。今、機械に目が付くようになる。そうなると、これから機械が爆発的に発展するというのが、松尾先生の見立てである。

・これまでの機械は、目の見えない機械であった。映像はみても、その理解度は初期設定されたプログラムの内容にとどまり、学習して自ら認識力を高めて、適応していくことは十分できなかった。実際、防犯カメラは映像を記録しても、それを見て判断しているのはヒトであった。

・機械の目が見えるようになると、新しいことがどんどんできるようになる。農業は人手に頼ってきたが、これはヒトの目が不可欠であって、代替がきかなかったからである。例えば、トマトの収穫ロボットは作れなかった。バラバラな枝から熟れたトマトだけ取るには、それを見る目が必要である。これができるようになる。建設現場もそうである。多様な作業はヒトの目に頼っていた。現場を見る目ができてくると、建設ロボットは多様に発展してこよう。

・食品の製造作業や外食サービスも人手に頼る部分が多い。調理を進めるにはヒトの目に頼って判断していた。これが、機械の目に置き換わるならば、調理ロボットが大きく発展してこよう。外食産業の自動化は大幅に進むことになり、腕が上がって味は美味しくなり、コストは下がってくる。人手不足にも対応できる。

・目を通した認識という能力がヒトから切り離される。かつて、人力や馬力が蒸気機関車に転換して、産業革命が起きた。目が機械化することによって、ロボットのカンブリア爆発が起きると松尾先生は予想する。5億年前に生物に目が生まれることによって、目を持つ動物の大繁殖が起きたことになぞらえている。

・目を通して、状況を認識できる家電製品や家電サービスが続々と出てこよう。家事労働の自動化が進む。人々は家事労働からかなり解放されるようになろう。医療における画像認識はすでに実用化されており、その診断への応用では医者の精度を超えてきている。

・目を持って、画像の認識を通して、ものごとを理解し、判断し、作業を行うAIロボットの分野はこれから大きく成長していこう。この分野で、日本の人材、日本企業が活躍する領域は広い。輸出して世界に出ていくことも十分可能である。

・AIロボットの応用分野は、人材の育成、人材の取り合いが勝負を分ける。20代後半~30代前半の若い人材がカギを握る。この人材の取り合いが始まっている。中国はわずか3年でDL(ディープラーニング)の先進国にのし上がってきた。

・米国では、AI人材の年収が5000万円、5億円というレベルである。米国のプロ野球選手を見れば分かる水準である。日本は500~600万円、よくて1000万円である。これでは戦えないと、松尾先生は指摘する。

・金融の分野でも、かつて日本で一流の若手が1000万円の時、米国のウォールでは1億円であった。お金がすべてではない、米国の人材が本当にそれに値するのか、バブルではないか、という議論も盛んであった。

・しかし、米国には世界中から人材が集まってくる。日本も優秀な人材を集めるには外国人のスカウトが必須である。外国人の一流の若手に5000万円を払い、日本人の若手は1000万円というわけにはいかない。働き方のグローバル化にいかに対応するかが問われていよう。

・これからAI関連のベンチャー企業が続々上場してこよう。その時、①持っているAIの技術開発力は本物か、②何らかの技術があっても、それを価値創造のビジネスモデルに作り上げているか、③それを推進する経営人材は十分か、という点を見抜き、サポートする必要があろう。

・面白い時代が始まっている。AI人材教育を推進しつつ、新しいAI企業に大いに投資したいものである。

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