日経平均株価3万円への期待~投資環境とリスクを読む
・日本の金利は上がるのか。円高に振れることはないか。そして、デフレに戻ることはないのか。その3点が株式市場にとって決定的である。昨年12月に、野村證券の木下智夫エコノミスト(投資情報部チーフ・マーケット・エコノミスト)の話を聴いた。それをベースに考えてみたい。
・今2018年は、世界同時の景気拡大が続きそうである。景気がよくなってくると、課題や弱いところが隠されてくる。米国では株高で資産効果が出ている。その一方で、生産性の上昇はかつてに比べて鈍い。
・欧州も、選挙が終わって一安心ながら、政治的不安定は改善していない。中国は党大会が終わって、習政権は強固なものとなり、経済は底固い。その中での拡張路線は摩擦を生む。日本も安倍一強体制は継続するが、綻びが出ずに次の手が打てるか。これらが懸念される。
・世界をみると、経済は好況であるが、政治は不況といえる。とりわけ、米国のトランプ政権は、米国ファースト(自国勝手主義)を貫いており、摩擦の火種は広がっている。
・景気を映す米国の金利をみると、長期金利はジワリと上がっている。大幅減税案が通って、労働需給はタイトである。12月時点で2.45%まできていたが、木下氏は2.6%程度まで上がるとみていた。
・一方で、日本はまだ金融政策を変えるつもりはない。そうすると、円安に進むことはあっても、円高に転換する心配は当面低い。それが続くだろうか。
・米国の北朝鮮政策や中東政策は、すぐに一触即発というわけではないが、悪化の方向にある。日本にとって、日中関係は改善の方向にあるとしても、北朝鮮と韓国の関係が火種となって強まっている。うまく収まればよいが、もし武力紛争になれば、日本の円は売られることになるので、そのリスクには注意が必要であろう。
・紛争が起きた時の分れ目は、それが3ヶ月程度の短期で終わるのか、3年も続く長期になるのかという点にあろう。長期戦になると事態は深刻になるが、軍事力の差は大きいので、そうした事態には至らないであろう。
・米国の減税策は、借金の少ない大企業、海外で稼いでいる米国の企業に有利に働こう。米国企業の生産性向上に貢献するような成長投資に活用されるかが問われるが、少なくても投資面ではプラスに働こう。一方、米国政府の財政には負担となる。将来の税収に戻ってくるような好循環を実現するかは、まだはっきりしない。
・米国景気は好調なので、インフレ率は穏やかにしても、これまでよりは上がってこよう。よって、米国の利上げは今後とも続く。昨年12月の利上げに加えて、今年3回、来年1回は必要というのが、木下氏の見立てである。この見方は、米国ではオーソドックスであり、利上げがかつてのパターンに比べて、早いわけではない。
・1994年の時は、1年余りで累計+3%の利上げ、1999年は1年で+1.5%、2004年は2年で+4%であったが、今回は、2019年までの4年で+2.25%という緩やかなピッチである。イエレンFRB議長の後任のパウエル氏も、安定感のある穏健派なので、特に心配はいらないとみてよい。
・ユーロ圏も、不況からの脱出に成功している。ギリシアの長期金利は顕著に下がっている。欧州中銀は間もなくテーパリングを開始する予定である。つまり、量的緩和による金融資産の買い入れ額を順次減らしていく。
・1ヶ月に600億ユーロ買っていたものを、300億ユーロへ減らし、これを9カ月続ける方向だ。木下氏は、これで打ち止めになるとみている。すぐに利上げにはいかないので、ユーロ金利の利上げは来年後半からになろう。
・中国はどうか。GDPの成長率は少しずつ落ちてくるが、それでも6.5%の成長は続こう。鉄、セメント、石炭、ガラスなど、供給過剰産業の構造調整は続く。企業の淘汰は継続しており、余計なインフラ作りに金を貸さないように、債務の過剰にも政策的テコ入れが入っている。
・国家開発銀行の貸し出し抑制はこれから本格化する。地域的には東北地方(遼寧省、黒竜江省、吉林省)がきつい。それでも、国全体としては、消費主導の経済によって発展が続こう。
・さらに、イノベーションの推進に向けた中国民間企業の活動と、中国人起業家のやる気は凄まじいものがある。実際、中国のEコマース市場はすでに米国を抜いて、世界トップクラスとなっている。そのプラットフォームではTmall(天猫、アリババグループ、シェア57%)、JD(京東商域、テンセントグループ、同25%)が圧倒的である。
・先進国の金融緩和が転換して、金利が上昇する時、新興国に資金が入らず、ファイナンス面で影響が出る可能性もある。これが急に起きると、ショックを引き起こすこともある。しかし、今回は、欧米ともゆっくりとした金融政策の変更なので、過剰反応は起きないとみている。インドネシア、インド、ブラジルには投資魅力があろう。
・日本はどうか。黒田氏の日銀総裁の継続は順当なところである。CPIが1%を超えてくると、日銀は早晩景気に対して中立な金利(均衡金利)を考えてこようが、まだその水準にはほど遠い。
・これまでのゼロ金利では、銀行の本業が成り立たない。金利が上がる局面になると、円高になる公算も高く、それが景気、インフレ期待に水を差す。またデフレに戻ってしまっては、元も子もない。よって、日本はユーロ圏よりもさらに遅れて、金融政策を動かすことになろう。当面今の低金利状態が続くとみてよい。
・世界的にて、日本の金利が最も安いとなると、海外のヘッジファンドなどが日本の低金利を求めて金を借りに来よう。それを外貨に換えると、円安要因になる。円安による輸出促進は批判を招くので、過度な円安にも注意する必要があろう。
・この調子でいけば、株は上がる。人々が熱狂してくると、いずれバブルに到ることも懸念される。2000年のITバブル、2007年のサブプライム(住宅の証券化)バブルの時、株式市場が行き過ぎであると分かっていた人はいた。それでも、皆は走ってしまった。
・勢いは突然破裂する。今回は何がシンボルとなるのか。ビットコインに象徴されるフィンテックかAIか。あるいは、新たな商業用不動産の証券化か。十分警戒していく必要があろう。
・日本企業の稼ぐ力はどうか。明らかに向上しつつある。ROEが12%に上がってくれば、日経平均換算で3万円が見えてくる。世界経済が良好な中で、自力としての収益力向上に注目したい。