ESGをいかに投資に活かすか~まずは読んでみて聴いてみよう
・8月に催された日経IRフェアで、「重要性高まる企業開示とESG情報」というパネルディスカッションを聴いた。参加者の関心も高いものであった。ESG情報をいかに投資に活かすか、という点で共感するところが多かった。そのいくつかを取り上げてみたい。
・ジェイ・ユーラス・アイアールの高山氏はESGについて、次のように強調した。E(環境)にいては、何らかの環境規制に違反すると企業のレピュテーション(評判)が下がってしまう。一方で、CO2などの環境負荷を軽減する製品やサービスを提供することは、企業価値の向上に結びつく。
・S(社会)では、人権に関わる中で、社員の働き方改革が注目される。社員の人材育成に力を入れて、働く人々のモティベーションを高める企業は、業績もよくなるはずである。男女、国籍など多様な人々が働ける会社の方が、均質な人材だけで成り立つ会社よりは、ヒューマンキャピタルのリスクが分散されるはずである。
・G(ガバナンス)では、マネジメント(経営陣)が将来の企業価値創造に向けた戦略の遂行や組織作りをしっかりやっているか問われる。同時に、リスク管理やコンプライアンス体制も重要である。そこで、社外取締役を含む取締役会がマネジメントの執行をきちんと監督し、株主重視の経営を展開しているかをみていく。
・ESGは、この10年の間に大きく注目されるようになってきた。欧州ではESG重視の経営が標榜されている。日本企業の活動もグローバルしており、海外の株主も増えている。また、財務情報をみるだけでは、企業の実質価値は分からない。財務情報に表れない非財務情報の中で、とりわけESGについて深く知ることが、中長期的に伸びる会社を見出すことに繋がるという考えが有力になってきた。
・中外製薬は2年連続で日経のアニュアルレポート表彰で最優秀賞を受けた。内田広報IR部長は、ESGへの取り組みとして、1)ガバナンス(G)では、イノベーションを創出する人材戦略、2)社会(S)では、アンメットメディカルニーズ(まだ治療法のない領域)を満たす革新的な新薬の提供、を強調した。製薬企業として、それをいかに実践しているか。そのプロセスが投資家に理解されるように工夫している。
・中外製薬は、スイスのロッシュが株式の50.1%を所有し、連結対象子会社となっているが、東証1部上場を維持しており、自主独立の経営を展開している。ESGも優れており、最近GPIFがESGインデックスに選定した3つの指数のいずれにも採用されている。
・米国のブラックロックは、世界最大の運用会社で600兆円の資金を運用している。半分が世界の株式で、9割がパッシブ運用である。インデックス型の運用なので、長期投資が基本であり、短期の財務情報よりもESGへのエンゲージメントを通して、会社がよくなってくれることが最も重要である。
・議決権行使はその時の意思表示である。世界5拠点で30名の専門家が94のマーケットをカバーしている。エンゲージメント(建設的な対話)に当たっては、企業と信頼関係を築き、話し合いを進め、尊敬される投資家になりたい、と同社のインベストメント・スチュワードシップ相当の大越氏は強調した。
・米国のROEは高い。そこで、経営者が暴走しないようにブレーキをかけるESGが重要である。日本のROEは低い。よって、もっと稼ぐようにESGを推進する必要がある。では、ESGはどのように業績に結びつくのか。
・まず、企業がESGを通して企業価値向上を図るような経営を実践する必要がある。次に、その活動を業績に結びつけて開示していくことが重要である。内田氏はここを強調する。ところが、ESGについては、まだ一般的な開示にとどまっている企業が多く、十分でない。
・GPIFのESGのインデックスは、それで1兆円を運用する。ここに採用されるか、されないかで株式市場での評価が変わり、適正な評価で遅れをとるかもしれない。とすれば、ESGの経営に力を入れ、その開示を通して評価を上げようとする動きが、これからいろいろ出てこよう。
・ESG情報を体系的に知るには、上場企業が開示する統合報告、アニュアルレポート、ESGレポート、CSRレポートなどを読んでみることである。レポートの名前はいろいろあるが、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)について、何らかのレポートは必ず出ている。
・会社説明会に参加した時は、投資家やアナリストが目先の財務情報の話ばかりしていないか。会社サイドも、投資家が知りたいことは目先の業績と株主還元であると決めつけていないか。まずは、ESGに関する会社の姿勢をよく知る必要があろう。
・ブラックロックの大越氏は、1)会社の統合報告を読んで、とりわけ経営者のメッセージに最も注目するという。2)そこに思いや魂が入っているかどうかは、読んでみると分かる。3)次にESGが経営哲学や企業文化に根付いているかをみる。4)さらに、それが企業の金儲けの仕組みと戦略的に結びついているかを検討するという。まさに、その通りであろう。
・ジェイ・ユーラス・アイアールの高山氏は、1)ESGについて、まずはコモンセンス(常識)で会社側の説明が腑に落ちるかを自分で判断する、2)次にガバナンス(G)については、取締役の構成や社外取締役の関与の仕方について着目するという。
・3)環境(E)と社会(S)については、企業の事業戦略と結びついているかをみる。4)ミニマム・リクワイアメント(最低必要条件)としてルールを守っているか、そして5)最も大事なことは、企業の価値創造にどうつなげているかをみるべし、と指摘した。
・以上の点を踏まえて、ESGを投資に活用するには、① Eでは、環境についてルールを守るだけでなく、企業の評価を高めるように活動しているか、② Sでは、国内、海外で働く人々の人権を無視するような不当なことをやっていないというだけでなく、生き生きと働けるような仕組みを作っているか、を聞いていく。
・③ Gでは、形だけの社外取締役ではなく、執行サイドのトップマネジメントの戦略を監督し、その報酬や後継者選びにも目を光らせて、もっと稼げる会社にしようとしているかについて、助言もしていく必要がある。
・個人投資家は、そんな難しいことは分からない、というかもしれない。そこで、難しくないように分かってもらう努力を、会社サイドがすべきである。中外製薬の内田氏は、家でごろごろ寝ころんでも読める統合レポート作りに力を入れた、と強調した。まずは、宝の山を期待して読んでみたい。間違いなく‛会社を見る目’は磨かれよう。