プロの人材育成~あなたの会社はプロを育てていますか

2017/07/03 <>

・自らがリードする組織やチームの成果を上げようとする時、人材はどのように育成し活用していくのか。有能でポテンシャルのある人材こそ、チームの外に出して活躍の場を広げていくべし、というのが筆者の考えである。

・これに対して、別の人から言われた指摘が印象深い。それでは自分のチームの成果が上がらないではないか、当面の成果に寄与しない人材こそ外に出した方がよい、と。ここは意見の分かれるところであろう。

・自分が新しいことに挑戦していくには、今やっている仕事のうち、自分でなくてもできる仕事は新しい人材に教えて任せた方がよい。そうすると、若手は責任を持った仕事を分担でき、実力を養え、自分は新しい仕事に振り向ける時間が増えてくる。

・自分はプロであり、今の仕事を誰にも渡さないとすると、まわりの人材は育たない。自分もマンネリに陥って、惰性で仕事をするようになるかもしれない。

・一方で、日本の従来型人事異動は、社内でいろんな仕事を経験しながら、次第に適材適所を探していくというものである。いやな上司がいても2~3年我慢すれば、どちらかが移っていく。社内人脈が養われるので、どこに回されても仕事を上手くやる人が出てくる。そういう人が偉くなっていくことも多い。

・しかし、別の会社に転職して、自分のやりたいことを進めようとすると、専門性が問われる。あなたは何が専門ですかと聞かれた時に、私は何年入社で、この部署でこんな仕事をしてきたと答える人が多い。誰もあなたの経歴を聞いているのではない。あなたは今どんな仕事の専門性を持って、何ができるのかを問われているのである。

・企業が求めているのは、専門性である。それはどこで磨くのか。大学や専門学校で一定の基礎を身につけた人もいる。会社に入ってから、オン・ザ・ジョブトレーニングと実践で、専門性を高める人もいる。しかし、一定の年限を経ても、自分の専門性を売りにできない人は、どの会社でもかなり多い。

・自分の専門性が売りにできないうちに転職しても、それはうまくいかない。多少の経験があるといっても、新しい組織に入った時に、その会社にいる社内人脈に長けた人には敵わないからである。

・では、一定の専門性を身に付けた人が新しい会社に転職したとして、その会社のカルチャーが社内人脈優先型であったら、自分の実力が組織の中で十分発揮できずに、フラストレーションがたまり、居場所がないと感じてしまうかもしれない。

・かつて、社内で通用する人がジェネラリスト、社外でも通用する人がスペシャリストといわれたが、実は正反対であるという見方も有力である。社内でしか通用しない人は、その会社の中でのスペシャリストであって、別の会社に移っても人脈がないから仕事ができない。一方で、どの会社に行っても通用するというのは、会社を越えたジェネラリストであり、それはプロとしての能力を備えていることになる。

・どの会社でも、専門としての業務知識は必要である。業界(セクター)共通のナレッジも重要であろう。しかし、今最も問われているのは、企業としての新しい価値を作り出す個性のあるビジネスモデル(BM)である。

・価値創造の仕組みであるBMは、人材を中心とする組織能力によって支えられている。トップマネジメントの経営力、新しいイノベーションを創り出す開発力、独自の組織能力を支えるESG(サステナビリティ)、業績を確固たるものにするリスクマネジメントの作り込みなどが鍵を握る。

・どの組織にもイノベーターは必要であり、従来型組織に馴染まない異能タイプはいるものである。しかし、そういう人材を活かそうとすると、摩擦を伴う。手間がかかり、何倍もの労力が必要となるので、普通はつまはじきにされ、外へ出されてしまう。

・一方、イノベーターを許容するだけでは、組織は強くならない。組織で働く人々がそれぞれ自らの専門性を養い、役割や機能としての能力を発揮することが求められる。どの会社も、ここに力を入れようと努力しているが、それがうまくいっていないことも多い。

・少子高齢化社会に入って、人材は取り合いになっているが、今や大学の新卒は短大並みである。実際には2年くらいしか学んでおらず、自分なりに何かを追求するという訓練が身についていない状態で就職先を探す。まさに潜在能力の青田買いであろう。理工系はマスターにいくのが当たり前なので、それで専門性を少し身につけたといえる。

・30代、40代の女性が再び社会に出ようとした時に、その専門性が同じように問われる。時給1000円の仕事というだけでは、今や人は採りにくい。仕事の内容と働く仕組みを大きく変えていかざるを得ない。

・50代、60代のシニア世代の人材をいかに活用するか。ここでも専門性が問われる。何をやってきたかという経験ではなく、これができるというプロの能力が求められる。どんな仕事でも20年、30年働いてきたのであれば、実はプロとしての力量はかなり養われているはずであるが、その能力に気付いていない場合も多い。

・人には、得意なことと苦手なことがある。腰の重い人は敬遠され、フットワークの軽い人は重宝がられる。威張る人は敬遠され、知ったかぶりして口先だけという人もいる。一方で、時に意見は言いつつ、任されたことをきちんとやり遂げる人は、すぐに信頼を築いていく。

・企業サイドでも、人材を上手く使えない会社は衰退していく。若者、女性、高齢者を単に安く使い倒そうという会社に将来はない。そんなBMが長く続くはずはない。ステークホールダーに早々に愛想をつかされてしまおう。

・投資家として会社をみる時には、①人材が増えている会社がいい会社、②生産性が上がっている会社がいい会社、③プロを育てている会社がいい会社と評価できる。投資家向け説明会に行ったら、社長にあなたの会社はプロの人材を育てていますか、と聞いてみたい。その答えに会社のカルチャーがはっきりと出てこよう。

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