成長企業はいつ配当を支払うのか

2012/03/05

昨年12月に東証マザーズに上場したダブル・スコープ(コード6619)が急成長を見せている。経常利益ベースで、2010年12月期が1億円、2011年12月期が12億円、今2012年12月期は21億円の予想である。今期は米国の電気自動車向けのリチウムイオン電池用セパレータ(分離膜)が先方の都合でやや遅れており、それを織り込んでこの数字である。売上高営業利益率は37%である。しかも、当期純利益も20億円で、税金はほとんどかからない。

崔(チョイ)社長は韓国のサムソンで働いていたが、セパレータの成長に着目し、会社を立ち上げた。しかし、韓国では当社の新製造技術にお金を出してくれる人はいなかったため、日本で本社を設立した。日本には理解してくれるベンチャーキャピタルがあった。工場は全て韓国にある。装置産業なので、大型の投資を必要とする。4月に稼働する3号機は22億円、次に準備している4~5号機には計55億円を要する。

韓国の工場では、家賃が50年間無料。これは20億円の土地代に相当する。韓国の法人税は本来22%だが、5年間は無し。2013年まで無税で、2015年でも11%で済む。日本の資本を活かして、韓国で生産し、世界に売っていくという戦略である。同じ工場地域に、トステム、リンテック、旭硝子も出ている。

リチウムイオン電池の価格は量産、市場拡大とともに下がっていく。部材の価格も下がるが、それ以上にコストを下げて、現在の高い利益率をキープしようという作戦である。

崔社長はサムスンの企画部門にいた。半導体も液晶もそうであるが、装置産業は、投資をするとキャパシティ(生産能力)が一気に増える。しかも、単一マーケットなので競争が激しく、ジャストタイミングで参入できるかどうかが、鍵を握る。通常、分離膜(セパレータ)の投資は稼働まで2年ほどかかるが、当社は1年でできる。社内で設備を設計していることが強みである。早く準備できれば、市場を読みやすい。

リチウムイオン電池メーカーはどんどん出てくる。台湾でも新規参入が相次ぐ。中国では、数え切れないくらいである。これらの企業とどう付き合っていくか。分離膜(セパレータ)はすぐには参入しにくいので、当社は優位なポジションにある。売上構成では、中国向け73%、米国23%、韓国4%である。

中国に電池メーカーは400社以上ある。中国企業の戦略は、まず安く作る。品質は不十分でもよい。作って儲ける。そこで資金が貯まると、エンジニアを入れる。高額で日本をはじめ、外国から雇ってくる。これで品質、性能を上げていく。それでトップを目指すというやり方である。世界のメジャーマーケットは中国であるから、ここで勝ち残っていく必要がある。サムスンも中国にバッテリー工場を作るが、韓国の10倍の規模である。

当社は6ラインまでの増設を決めた。2ラインで50~60億円の設備投資を必要とする。毎年2ラインの増設が内部資金でできるようになれば、資金的な余裕も出てくる。そうなれば、配当をすることも可能となろう。

個人投資家からは、キャピタルゲインは売却しないと実現しないから、配当がほしいという質問が説明会で出た。成長余地が大きいだけに当面は難しい。日本の旭化成、東レやセルガード(米国ナスダック上場)に対抗して、2015年には業界№1になりたいという当社にとって、しばらくは成長資金が必要である。

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