株主総会の面白さ~東祥、NRI、日立、リクシル
・今年は4つの会社の株主総会に参加してみた。企業の中期展開力、足元の収益力、経営者の実行力などから企業を評価すると、筆者の評点では12点満点として、東祥 10点、NRI 8点、日立 7点、リクシル 6点となった。
・点数そのものに、さほど意味はない。しかし、企業を評価する軸を自分なりにはっきりさせ、それに対して中身を吟味して点数をつけてみると、相対的な位置付けをはっきりさせることができる。
・1)経営者のマネジメント力、2)事業の成長力、3)ESGからみた持続力、4)業績に対するリスクマネジメントの4軸に対して、3段階(3点、2点、1点)で評価してみると分かり易い。
・株主総会では、Q&Aでいろいろな質問が出る。①質問はまともか、②返答の姿勢は十分か、という点でうまく噛み合わないことも多い。文句をつけたい特殊株主や、「ことなかれ」で答えればよいという逃げの会社は別にして、1)的を射た良い質問に、2)すっきりした納得性の高い答えをする会社は面白い。
・企業価値創造の資する面白いQ&Aを、この4社から取り上げてみたい。東祥(コード8920)は、スポーツクラブとシティホテルの経営で、業界随一の収益力を誇る。1)社員の年収ランキングをみたら、3000社を超える上場会社の中で、下から1%のところにある。会社は儲かっているのだから、社員の処遇ももっと改善すべきではないか。
→これに対して、会社サイドは3年連続でベアをあげており、年収が低いわけではない。当社は上場会社の中で、社員の平均年齢が26.4歳と最も若い会社の1社である。若い故に平均年収が低く出ている。この若さが当社の強みである、と説明した。
・2)KPIとして、売上高経常利益率を最も重視し、現在の28%を30%に上げるというが、これは財務的な指標であって、結果としての数値である。もっと先行的な経営指標を示すべきではないか。
→当社は施設サービス業として、建物を建て10年以内で借入金は返済している。リースも5~6年で満期となる。運転資本を使わない経営をしており、仕入れや営業にもお金を使わない。儲かる出店しかしない。よって、年10店ペースの出店ができるかどうかをみてほしいと答えた。ビジネスモデルが確立されており、中期的な成長性にも全く不安はないと評価できよう。
・野村総合研究所(NRI、4307)は、今年4月に此本臣吾社長が就任し、彼が議長を務めた。1)事業報告でいくつかの課題をあげていたが、新社長はどこに重点をおいて何をやるのか。
→中期計画Vision2022 については、総会の後の経営報告会で詳しく説明する予定であるが、2つのことに力を入れていく。1つは、新しい社会のパラダイムを洞察して、顧客と一緒になって未来社会のインフラを作っていく。
・もう1つは、利益率の高い現在のビジネスモデルを磨いて、投資を継続する。その中で、規模とコストで競争はしない。価値で勝負する。NRIは堅実な会社であるが、挑戦への勢いが弱くなっているとも感じる。そこで、海外ビジネスの拡大では、社長自らがリーダーシップをとって伸ばしていくと明言した。
・2)野村證券がネット取引の台頭で弱くなったら、NRIも一緒に落ち込んでいくのか。フィンテックの影響はどうか。
→野村証券とのビジネスのウエイトはすでに30%を切っている。ネット証券のフロント、ミドル、バックオフィスの仕事も当社は分担しており、そのプラットフォームで、いろんな金融機関にとって、なくてはならない存在となっている。この分野のシェアは圧倒的に高い。
・フィンテックについては、1年前からR&Dに力を入れており、1つのカギを握るブロックチェーンのあり方についても実証実験をしている。これからもベンチャー企業と組んで取り組んでいくと説明した。コンサル出身の此本社長の語り口はソフトで説得力がある。海外ビジネスで実績を上げてきただけに、今後の方向を担うのに適任であると感じた。
・日立製作所(6501)は、2018年までの中期3カ年計画をスタートさせ、‘IoTの推進’を全面に打ち出した。取締役13名のうち社外が9名、うち外国人が5名(女性2名)と多彩である。
・1)AI、IoTに力を入れるというが、IBMを始め、ライバルも皆力を入れている。ライバルに対してどのように対抗していくのか。
→この3年間投資をしてきており、事例も作ってきた。制御と運用でプラットフォームを確立していく。これが強みなので、十分戦っていけると述べた。
・2)ジーメンスや三菱電機に比べて、売上高営業利益率が低い。もっと収益力を高めて頑張ってほしいがどうか。
→確かに海外ビジネスで一部躓き、品質面でも課題を残した。今回の中期計画では、それらを克服し、何としても目標を達成していく。12のビジネスユニットのフロントの声が、トップマネジメントへ上がってくるように仕組みを変えたが、ここが課題であるとは認識している。東原社長は座右の銘を聞かれて、それに代わる言葉として、“中計2018を何としても達成する”と答えた。
・リクシルグループ(Lixil、5938 )は、グローバル化を急ピッチで進め、一部で大きな赤字を出した。引退前の藤森社長が議長を務め、後任の瀬戸欣哉CEOは6カ月前に入社し、子会社の社長として準備に励んできた。
・1)藤森社長に期待して株主となっていたが、今回退任するという。中国のジョウユウ社の赤字で責任をとらされたのか。
→5年間CEOを務め、一つの区切りと考えている。本心ではもっとやりたい気持ちもあったが、グローバル化への布石は行い、変革を実行した。ジョウユウが粉飾決算を行っており、それによって大きな赤字を出した。これを見抜けなかった責任は経営陣にある。今後はそのようなことが起きないように手を打った。
・2)次期CEOはこの場にいるのか。今後はどのように経営していくのか、話を聞きたい。モノタロー(MonotaRo、3064)の社長を務めてきたというが、会社の規模が違う。本当に社長が務まるのか。
→瀬戸社長が自らコメントした。確かにモノタローは350人の会社で、パートも入れて800人である。リクシルはグループ6万人の会社である。しかし、時価総額でみれば、リクシル5500億円に対して、モノタロー4500億円である。
・リーマンショック後の企業の成長力でいうと、モノタローは日本で1番、世界で9番目に成功した会社である。瀬戸社長は11社の会社を作り、新しい企業価値を、スピード感を持って作ってきた。藤森社長は国内の5つの会社を1つにまとめ、海外の企業をM&Aしてきた。瀬戸氏は、このベースの上に新しい価値を作っていくという。
・内外の社員とは既に6カ月話をしてきた。瀬戸社長曰く、「‘私は運を持っている’ので、株主を続けてほしい」と訴えた。
・4つの総会のQ&Aの一部を紹介した。価値創造に関わるよい質問がいろいろ出ており、真摯な答えも増えていると感じた。まさに、①マネジメント力、②成長力、③サステナビリティ、④リスクマネジメントの4つが整ってこそ、価値創造ができる。総会での対話がそういう場になってほしい。
・1年後に、今回の筆者の企業評価(評点としてのレーティング)がどのように変化していくか。今後の変革とその実行力に注目したい。