資産運用を見直す~さらなる仕組み革新へ

2016/05/16

・4月に日本証券アナリスト協会の国際セミナーが、CFA協会との共催で開かれた。テーマは「資産運用における新しいパラダイム」であった。その中で、筆者が重要と受け止めた論点について考えてみる。

・日本は資産大国である。個人金額資産は1700兆円ほどあるが、その半分は現預金でほとんどリターンがない。なぜリターンがないものにお金を預けておくのか。いざという時、一番確実なのは現金である。銀行は信用できる。そこで一定のお金は預貯金に置いておこうとなる。

・問題は1000万円以上の預貯金があるのに、日本株や外国債券などリスクのある金融商品に全く投資していないとすると、それには別の理由があろう。1)1円でも損をするのは嫌だ。2)リスクをとるだけの知識と経験がないので、不得意なことはやめておく。3)ある程度リスクをとってもよいが、どういうポートフォリオにすればよいのか、自分では決められない。4)信頼して相談できる相手もいない。このように、さまざまなケースがあろう。

・筆者のケースでは、子供の教育と不測の事態に備えて、一定の現預金は安定的に確保しておきたいと考える。次に、自らの仕事に必要なオフィスのために不動産を購入した。これは仕事が順調であればリターンを生む。将来は売却してもよい。それ以外は金融投資に向けている。

・常に全額リスク商品に投資をしているわけではなく、待機資金とのバランスを図っている。長期投資なので、日本株のポートフォリオの入れ替えも今のところ少ない。外国株については、国別やテーマ別の株式投信を活用している。海外の個別株について、日本株と同じように十分調べることは難しいからである。

・日本の株式市場は、外国人投資家主体で動いている。日本人の投資家は、日本の株式の魅力を外国人投資家のように見抜けないのだろうか。あるいは、外国人投資家は日本を過大評価しているのだろうか。

・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような年金資金、郵貯、簡保といった政府系の資金は、ようやく日本国債中心の運用から、もっとリターンを求めて、グローバルな分散投資を積極化する。そのための運用体制を人材、システム、評価を含めて一段と見直していく。リスクをとって投資リターンを稼ぐ仕組み、グローバル運用に耐えうる仕組み作りが問われている。

・日本の株がもっと上がるには、マイナス金利政策もさることながら、上場企業の稼ぐ力を一段と高める必要がある。そのために、企業価値向上が求められ、それを強化する仕組みとして、企業のコーポレートガバナンスコード(CGC)や機関投資家のスチュワードシップコード(SSC)が導入された。

・企業は中長期の価値向上に力を入れ、投資家も企業を中長期的に評価して投資を行う。この好循環が続けば企業全体の稼ぐ力が高まり、株価も上昇する。ROEが12%に向上してくれば、日経平均で3万円が見えてくることになろう。

・GPIFがJPX日経インデックス400の構成企業にアンケートしたところによると、企業からみて機関投資家の6割がSSCに則った行動によって、ポジティブな方向に向かっているという。一方で、東芝のケースは、不正に対してガバナンスが十分でないことを示した。セブン&アイホールディングスのケースは、強烈なリーダーの後継者はどのように選任するのか、ワンマンにならずに戦略立案を遂行するには取締役会はどのように機能すべきか、について課題を残した。

・ゴルフに興味のない人に無理にゴルフをやらせる必要はない。趣味は多様でよい。しかし、自らの資産形成は趣味ではない。仕事と同じように真剣に向き合う必要がある。年金の仕組みを改革し強化するのは国の仕事であるが、年金で足らない部分については働く人々が自助努力する必要があり、自ら貯蓄した資金にもっと働いてもらう必要がある。

・NISA(少額投資非課税制度)に続き、ジュニアNISAも始まっている。金融や経済に関する教育は、運転免許証のように普通の国民全員が身につけるべきものといえる。若者から高齢者まで、その知識の習得、使いこなせるリテラシーを国民的運動として、さらに盛り上げるべきであろう。

・金融機関はどうやって預金者や投資家のニーズを満たしていくのか。多くの国民は投資に興味がないというアンケート結果も出ている。これは身近に成功体験がなく、金融商品に不安、不信がつきまとっているからと思われる。銀行にお金を預けてもリターンはない。いずれ預け料に必要になるかもしれない。安全な貸金庫の使用料ともなりかねない。

・投資信託は、金融機関が手数料稼ぎのために、入れ替え営業を行っているのではないか。金融庁はかなりの懸念と疑念をもっている。顧客自身の判断によるものといっても、何らかの勧誘が機能している。そのこと自体何ら悪いことではないが、中長期の保有に耐えられる金融商品に仕上がって、サステナビリティを有しているかどうかが問われる。

・金融機関の短期の利益追求と顧客の中長期のリターン追求に齟齬はないか、本当に顧客のためのフィデューシャリーデューティ(忠実義務)を果たしているか。フィデューシャリーをしっかり確保すると、金融業の儲けはなくなってしまうのか。そんなことはない。中長期にリターンを生む金融商品を提供しつづけるには、その金融機関が中長期にサステナブルであるという証しこそが信頼に結びつく。

・もし、金融機関が自己の利益を優先しているとしたら、その金融機関は顧客に見捨てられてしまう。業界がすべてそうなら、日本の金融業は発展どころか、衰退に向かうであろう。新しいビジネスモデル作りが求められる。世界に範はあるので、ストレッチしてぜひ作り上げてほしい。

・確定拠出型年金(DC)やNISAを、さらに拡大させる仕組みが今後作られていこう。DCでは、積極的運用を選び納得する人々に、何らかのインセンティブがあってよい。DC版株主優待制度である。NISAは枠が拡大して、ジュニアNISAもスタートしたが、さらに長期的に活用できるように制度設計がなされていくことになろう。

・資産運用(アセットマネジメント)会社が、銀行系列や証券会社系列である故に、系列親会社の利益を優先して、真に顧客のことを考えていないのではないか、という懸念に対して、どう応えるか。顧客へのフィデューシャリーを担保するような仕組みと、透明性の確保、みえる化が必要である。現状でも親会社のいいなりになっているわけではない。しかし、独立性が明確に確保されるように、新たなガバナンスの確立が求められよう。

・日本の運用会社はグローバルな競争力を確保できるか。顧客としては、グローバルな運用会社の商品を購入すればよい。競争の確保が日本人で難しければ、グローバルな人材の活用と、それができる組織作りに一層力を入れる必要があろう。

・金融教育の基本は株式投資にある。株式投資を身近に実感して、短期に儲かった損したではなく、企業価値と業績、業績と株価の関係を肌で分っていくことが必須である。そうすれば、投資信託の理解も進む。内外のインデックス型やスマートベータ型の商品についても、上がった/下がった、損した/得した、という目先に囚われることなく、中長期のスタンスを身につけることができよう。まずは会社を見る目を養うことを全力で応援したい。

 

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