NNKからPPKへ~高齢化社会の福祉
・‘治療から予防へ’ これをいかにビジネス化して、社会的コストを低減しながら、企業価値に結びつけるか。その基本となる考え方を持っておくことは有益であろう。
・高校の同窓会で星旦二先生の話を聴く機会があった。彼とは同じ歳であるが、医者になると決めて、工業高校から普通高校に入り直したので、ブラスバンドでも2年下であった。その後医学部に入り、東大で医学博士を取得した。
・PPK(ピンピンコロリ)という言葉は前からあったが、NNK(ネンネンコロリ)は星先生が名付けた。誰もが死の寸前までは元気でいたいと思う。ところが、うっかりすると入院生活が長くなって、寝たきりになり、思い悩みながら死を迎えることになりかねない。現にそういう人も多い。
・しかし、社会的にみると、NNKは医療費がかかるのでコスト負担が重くなる。本人にとっても、本来の望む道ではない。家族は病院に入れればホッとするかもしれないが、回復できないまますぐに出てこられても困ってしまうという現実もある。
・星先生は長年医療に関わる社会調査と健康のあり方について研究を進め、面白い事実と有意義な提言を行い、その内容は「ピンピンコロリの法則」という本にもまとめられている。高齢者の福祉を向上させつつ、社会的コスト(公共の医療費)をいかに抑えるかについて、興味深い点をいくつか取り上げてみる。すでによく知られていることかもしれないが、いかに実践していくかは大きなテーマである。
・小太りで、高コレステロール群の人たちの方が長生きだという。これは初耳であった。あまり高すぎるのは問題だが、低コレステロールよりは高コレステロールの方が、多少高くても大丈夫という。動脈硬化は高まるが、血管を丈夫にして腰の曲がりを防ぐ効果もある。メタボと心疾患で死ぬことは、さほど関係がない。そもそも心筋梗塞などの心疾患で亡くなる人は相対的に少ない。
・死亡率が高い群はやせている人である。BMIが19を下回ると、35以上の群とともに死亡率が急に高まる。栄養をしっかり採って、免疫力を高めることが有効である。ウイルスに対抗するには、小太りの方がよいといえるようだ。
・お酒を毎日飲む人の方が、死亡率が低いという。最も死亡率が高いのはお酒を飲まない群であった。適量の楽しいお酒はストレスを解消し、社会とのつながりも広めることに役立つ。また、運動を全くしない群の死亡率は最も高いが、運動をどのくらいするかは、生存と死亡との関係でいえば、気にしなくてよい。適当に楽しく身体を動かしていれば、それで十分ということのようだ。
・生活習慣病では、①がん、②心臓病、③脳血管障害の三つが重大である。それを防ぐには、1)睡眠をとる、2)肥満にならない、3)運動をする、4)喫煙をしない、5)酒を適量以下にする、ことである。しかし、そのために生活習慣を変えても、生存率には変化がないという。生存率でいうと、好ましい生活習慣に行動を変えても、死亡率の低減化には必ずしも結びつかない。無理をして、それがストレスになってしまうこともある。
・家にばかり留まって、外出しない高齢者の生存率は低い。新聞を読み、外出して、預貯金の出し入れを自分でする人ほど、生存率が高い。海に近い都市より、標高の高い地方に住む方が平均寿命は長い。緑が豊富で水や空気が美味しい地方のほうが良いというわけだ。
・寝たきりになる時期をいかに遅らせ、しかも寝たきりの期間をいかに短くして、あの世へ行くか。これが人々の願いであろう。しかし、PPKではなく、長寿であっても長く寝たきりで最後を迎えるNNKになってしまうことも多い。
・病院が多いほど病人が多く、特養(特別養護老人ホーム)が多いほど要介護認定も多いという傾向がある。普通は逆に考えるが、因果関係が逆になっているともいえる。要は受け皿があると患者が増え、受け皿がなければ自分達で何とかするという面もあるわけだ。
・全国で長野県が最も健康長寿県である。これは農業を中心に働いている高齢者の割合が最も高いことによる。自分を必要とする仕事がある、ということが大事であると星先生は指摘する。また、長野県は肝臓がんの死亡率が全国平均より大幅に低い。ひいては、長野県は一人当たり老人医療費が最も少ない県の1つである。
・歳をとっても、一定の稼ぎを得ることが長生きに繋がる。前向きに社会との関係を保つことができて、足腰もしっかりしていられるからだという。一定の金額とは100万円程度で、これが300万円になったからといって長生きが伸びるわけではないらしい。
・病院の世話にならないようにする。入院が長くなるとそれだけ健康でなくなる。薬は少なめで、病気と共存するくらいの気持ちが大切と、星先生は強調する。一病息災である。検診では、乳がん、子宮がん、大腸がんは受けた方がよい。これは生存維持に明らかな効果があると分かっている。
・かかりつけの内科医と歯科医の双方をもつことが大切である。内科医はわかるが、なぜ歯科医か。これは口腔ケアが十分でないと、体力が弱ってくる高齢者には、バイ菌が入って病気になることがあるからだ。
・星先生はこうしたことを社会統計的に調べてデータで示している。身体的健康(からだ)、精神的健康(こころ)、社会的健康(つながり)を健康の3原則と名付けている。それを維持するには、1)笑顔、2)ストレスのコントロール、3)夢をもつこと、が必要であるという。
・とかく老いていくことは悲しく、焦燥感も次第に増してくる。不安になり、怒りっぽくなってくる。それでは楽しくない。高齢化社会の社会的コストをできるだけ抑えるためにも、次世代の若者の負担を増やさないためにも、NNKではなくPPKを実践するようにしたい。それにはいつまでも「からだとこころとつながり」が保てる何らかのコミュニティ活動に参加していくことが最も重要であろう。このコミュニティ活動を支える新しい仕組みが、今後一段と活発化しよう。