これからの経営~安川電機、日揮、アシックス
・10月の日本証券アナリスト大会で、3社の経営者のディスカッションを聴く機会があった。それぞれに競争優位の個性を作り上げているが、これからどんなマネジメントを展開するのか。印象に残った点をいくつか取り上げてみたい。
・安川電機はモーターで創業して99年、最初の50年間は世界へのキャッチアップであったが、25年前にサーボモーター、ロボット、インバーターの3分野に集中し、プロダクトとサービスをグローバルに伸ばすと決めた。プロセスオートメーションからディスクリートオートメーションへ展開してきた。今では海外売上比率が65%(中国20%、米国17%、欧州15%、アジア他13%)という構成である。
・海外では、現地化をさらに進める。作る、カスタマイズする、自前で販売する、という点に力を入れていく。新しい経営としては、環境エネルギー(発電、自動車)や、ヒューマン ロボテックスアシスト(ファシリティの中でのロボット)に取り組んでいく。
・これからはロボット革命である、と安川電機の津田純嗣社長は強調する。この10年で日本の製造業の生産性は2倍になったが、非製造業の生産性は上がっていない。日本でロボットは30万台ほど動いている。これからの潜在成長力のアップには、新しいロボットが貢献することになるという。
・日本からの海外移転は止まってきた。需要地立地はこれからもあろうが、円高対応という点での流れは変わってきた。自動化すると、中国で作るよりも日本の方が安いという傾向も出ている。
・デフレ脱却の出口もみえている。インフレと賃上げが噛み合うようにするには、すべての産業で生産性を上げていく必要がある。労働力不足の中、ロボットの果たす役割は大きい。その意味において、新しいロボットに力を入れていくと強調する。
・ロボット、インバーター、サーボで、シェアがまだ2~3位にとどまる地域も多いが、ここでシェアをとっていく方針だ。ROEの数値目標は掲げていないが、現在のROE13.8%に対して、どのような水準がよいかをこれから検討していく。コーポレート・ガバナンスとしての社外取締役には、どうやって成長を加速するかという視点も含めて、取締役会の中での役割を考えてほしい、と津田社長は指摘した。
・日揮は、化学やエネルギープラントのエンジニアリング企業である。ビジネスの8~9割は海外で、1件1兆円のプロジェクトを2つほど手掛けている。中東では、プラント建設に5万人の労働者を使っている。彼らは世界60カ国から来ている。日本人は100人くらいしかいない。最近はプラントを作るだけでなく、自ら事業として、オペレーションを行うという展開もみせている。
・米国のシェールガス革命で、米国経済は活性化している。日本はアベノミクスでインフラ輸出に力を入れているが、システムやオペレーションのノウハウという点で、日本企業の良さが生きている、と川名精一社長は強調する。実際、日本企業としての当社の良さが、中東ビジネスを通して評価され、それが米国でのビジネスにも結び付いている。
・日本企業の良さは、契約を守り実行すれば終わり、と考えないところにあるという。契約の先を見ている。つまり、相手の立場でビジネスを考えるという点が、おもてなし文化の表われともいえる。日揮のエンジニアは1万人いるが、半分は外国人である。外国人の新入社員も増えている。グローバルな商慣習にはきちんと対応するとしても、日本の良さであるメンタリティは保っていくという。
・中期的な事業ポートフォーリオでは、中東のウェイトを下げて、米国、カナダを伸ばしていく方針である。5年平均のROEで10%を達成すべく収益性を確保する。大型プロジェクトに耐える財務基盤も必要なので、自己資本比率50%も目標とする。重点課題として、海外拠点を強くしていく、と川名社長は強調する。サウジアラビアの現地法人でも、ローカライゼーションのニーズは強い。そのためにはローカルの人材を育成して、組織力を高めていく必要がある。コスト、スケジュール、品質、環境、安全に関するマネジメントを日本並みに確保できるようにバックアップしていくのが、日本本社の役割であると指摘した。
・アシックスはランニングシューズが売上の7割を占める。海外売上比率は70%で、社員6500人のうち日本人は1500人、5000人が海外である。神戸の本社がグローバルヘッドクォーターで、日本語と英語を共通語にしている。取締役会以外の全てのマネジメントに関する会議は英語で行っている。
・米国、ブラジルを始めとして海外市場は伸びている。課題は、人員余剰を抱えている日本事業にある、と尾山基社長はいう。また、シューズ以外ビジネスでは、売上の17%にとどまるアパレルをもっと伸ばすことに力を入れていく。
・現在、売上高3300億円、経常利益270億円であるが、売上の4000億円はみえている。次に、いかに1兆円を目指すか。ナイキの売上高は3.0兆円、アディダスは2.5兆円である。現在は世界4位だが、世界№3になろうとすると1兆円はほしいという。そのためにM&Aも視野に入れている。
・オリンピックを見据えて、2020年の日本の魅力をどこに置くか、さらに2021年のポストオリンピックをいかに克服するか。日本企業は世界で戦うのか、ローカルに生きるのか。当社は世界で戦うので、若者を鍛えていく必要がある。その若者の国籍はどこでもよい、と尾山社長は強調する。
・一方で、マネジメント人材の争奪戦も始まっている。マネジメント人材にとって、家族も含めて、学校、医者など安心して生活できる環境が大事である。家族が病気になったら、自国に帰るというのでは不十分である。
・また、日本の法人税は高い。グローバル人材の活用を考えると、日本に本社を置く必要があるのか、という点について真剣に問題提起する。リージョナルヘッドクオーターはすでに各地域に置いているが、機能の見直しが求められている。
・加えて、いかにブランド力を上げるか。ブランドに国籍は関係ない。一方で、made in Japanが欲しいというニーズもアジアでは強い。アシックスは売上高営業利益率10%、ROE15%を目標にしている。現在ROEは13%レベルであるが、もう一段高めることを狙っている。アシックスの挑戦は興味深い。
・3社とも業態は全く違うが、国境を越えて世界で戦っていく体制を整えている。独自の強みを活かして、日本的な良さは生かしつつ、グローバルなマネジメントを実行しようとしている。投資ポートフォーリオの対象としてフォローしたい価値創造企業であろう。