つきあいにくい中国の課題
・中国には時々行く機会がある。都市化はハイスピードで進んでいる。地下鉄のできる国は途上国から中進国に移行する証でもあるが、その勢いはすさまじい。
・かつてシンガポールの投資家に、中国とインドのどちらに投資するか、と聞かれた。どちらにもチャンスは十分あるが、リーダーシップの下、物事がサッサと進む国と、民主主義の手続きで事態がなかなか進まない国では、スピードを採る、と彼は述べた。
・日本はリスクをとらない企業が多く、国政の改革においても思うように進まない国と見られていた。アベノミクスはそれを打ち破ろうとしているが、まだ道半ばである。
・日本と中国、韓国の外交関係は難しい。互いに理解しえない論理と感情の壁が立ちはだかっており、険悪な雰囲気をどうコントロールしていくかが問われている。
・中国から観光客が大勢訪れている。日本を理解してもらうにはよい機会である。中国人は自国の情報統制についてよく知っており、うかつに本音を話すということはない。日本滞在は物心ともに安心して楽しめるらしい。留学生の中には日本で学んだ後、日本企業で働き、日本に住みたいという人もかなりいる。
・でも、ずっと日本企業で働きたいかというと、日本の組織運営のぬるま湯的なところが我慢できないという声も聴く。頑張ったらすぐに昇進し、報酬が大きく増えることを望む。
・中国における日本企業は、生産拠点から販売拠点へ仕組みを変えている。生産コストだけに着目すると、アジアの別の国に移った方がよい。中国の膨大な市場を相手にするなら、販売拠点としての機能充実と、中国人のマネジメントによる独立した経営が求められる。
・中国は経済の規模では大国となってきた。しかし、1人当たりの所得格差は極めて大きい。共産党の1党独裁であるが、優秀なリーダーによる国の舵取りで一定の効率を上げているのも事実である、派閥や閨閥があるにしても、妙な世襲制はほとんどない。
・このような理解の下で、野村資本市場研究所の関志雄シニアフェローの話を、日本証券アナリスト協会で聴く機会があった。中国経済を国際的な視点で分析、予測できる第一人者である。
・関氏は昨年著書も出しているが、中国が直面する「二つの罠」について、強調していた。中国経済の成長率は従来に比べて鈍化しつつある。労働力不足を通して、潜在成長力は低下しており、7%前後の成長率が妥当なところであるという。
・住宅バブル、地方政府債務、シャドーバンキングについて、海外からみると不安は高まっている。確かに経済のマイナスの影響をもたらすが、国がコントロールできなくなって、クラッシュすることはないとみている。
・二つの罠のうち、「中所得の罠」については、中国内需の大きさを活かせば生産性を上げる余地は十分あるが、既得権益を握っている国有企業が自らの改革に乗り出さないのであれば、その克服は難しくなる、と関氏はいう。何をなすべきかの方向性は分かっていても、構造改革は実際にできるかというと、どこの国でも直面する壁は高い。ただ、中国のリーダーシップは強烈である。上手く事態を進展させられるかどうかに注目したい。
・もう一つ罠は、「体制移行の罠」である、と関氏は強調する。普遍的価値を重視し、権力の腐敗を乗り越えて、新しいグランドデザインを描き、遂行することができるか。これはまだ分からない。
・中国とのビジネスは人に依存する。国としてつきあいにくいからといって、避けて通ることはできない。中国ビジネスに果敢に挑戦する日本企業も引き続き多い。中国ビジネスにおけるマネジメントの巧拙について、その成功や苦難の事例をよく知って投資判断に役立てたい。企業のIRからは、中国におけるマネジメントの実態について詳しく聞きたいと思う。