規模を追わない経営
・最近、マツダの元気がよい。どうしてか。毛籠(もろ)常務執行役員の話を聴く機会があった。それは規模を追わない経営を実践しているからである。規模を追わないといえばベンツやBMWを思い浮かべるが、マツダに同じようなブランド力があるとも思えない。ところが、変化への挑戦は実に興味深い話であった。
・マツダは1920年(大正9年)創業。現在、売上高が2.7兆円、経常利益1400億円、従業員数3.8万人、130万台の車を120カ国で販売している。2013年3月期は当期純利益で5年ぶりに黒字に復帰し、2014年3月期は復配も予定している。広島県のGDPの20%を占め、働く人の出身も3分の1は広島県である。
・マツダといえば、ローターリーエンジン、ハッチバック、ロードスター(オープンスポーツカー)を思い浮かべる。かつて経営が苦しくなって、住友銀行の支援を受け、フォードの資本参加を仰いだ。そのフォードとも2009年には資本提携を解消し、自力での再生を目指した。国内の販売台数は20万台と少ないので、海外での販売台数を伸ばすことに力を入れてきた。その過程において、いつも為替に苦しめられた。円安の時に過大投資を行い、円高の時に負担がのしかかるというパターンであった。量産効果を求めて、規模を追いかける経営を続けてきた結果である。
・長らく、規模が大きくないとブランドは強くならないと考えていた。欧州におけるマツダのシェアはわずか2%にとどまる。ブランドとは消費者の頭の中にある像(イメージ)である、と毛籠常務はいう。ブランドのために量が必要であるとすると、量を追求して、押し売りをしがちである。本社ではブランドを作るために量を求めるが、それぞれのローカルな地域や現地では、量を捌くための安売りや値引き販売に追い込まれた。商品や技術でいいものが単発的で出ても、それが長期的なブランド力の向上に結び付くというほどではなかった。
・何としてもマツダらしい戦い方を生みだす必要があった。そこで2つの点に力を入れた、1つはハイブリットではなく、従来型のガソリンエンジンに集中した。新興国の市場が大きく伸びるので、先進国型のハイブリッドよりも、まずは従来のエンジンを根本から見直すことに全力投入した。もう1つは、車の車体構造を変えることに集中した。マーケティング戦略においても考え方を一変させた。①大きくなくてもよい、小さいことに意味があると考えた。②存在価値の有無を問うて、“走る喜び”を追求することにした。③際立つワン、オンリーワンを求めて、強烈なファンにアピールすることを求めた。④そして、選ばれ続けるには、№1ではなく、オンリーワンになると決めた。
・そのために、会社をどのように変えていくのか。すべてを変える必要があるので、それを“つながり革新”として遂行した。何よりもブランドロイヤリティが最も大切である。その中で2のPに力を入れた。1つはプライスである。従来は値引きのマツダであった。それをやめるために、在庫を減らす、車のグレードアップを図る、中古車市場のコントロールで残価を適正に保つ、というようにした、正価販売の正価に、意味ある価値を反映させるようにしたのである。結果として、米国では価格が上昇し成功をみせた。
・もう1つは、購買チャネル(パーチェスチャネル)におけるコミュニケーションを変えた。「Be a driver, Manifesto」宣言にみられるように、ドライブが大好きな人に合致したクルマしか作らないと決めて、製品の特徴を強調するのではなく、商品のストーリーを訴えることにした。インサイドアウトの実践である。内面(インサイド)のパラダイムを変えて、それから外側(アウトサイド)を変えるという考え方で攻めた。実際、ターゲット客へのねらいは当たり、新しい顧客層が入っている。ブランドにエンゲージしていくことで、強い関係性を作っていけると、毛籠常務は実感している。輸入車と比較対照して、マツダのクルマを購入する客も増えている。一方で、スバリスト(スバルのクルマが大好きな人)と、かぶっているわけでない。
・ものづくり革新は2006年から本格化した。数を追わなくてもコストが下がる生産方式を開発し、それを成功させている。いわゆる部品の共通化によるのではなく、燃焼特性を共通化させるという画期的なイノベーションを実現した。これによってエンジンの生産工程が2~3割削減できるようになった。コモンアーキテクチャーの開発によって、コストをドラクティクに下げられるようになったのである。これが規模を追わない経営を浸透させ、新しいブランドの追求にも結び付けられるようになった。4年ほどかけて、ようやく全社的な方針として定着し、業績の成果にも結びついてきた。
・最近マツダはトヨタからハイブリットの技術を導入して、ハイブリッド車も出している。そこに自社で開発したスカイアクティブ・エンジンを活かし、性能を一段と高めている。スカイアクティブ・エンジンは、燃焼特性を大幅に改善するとともに、その特性を共通化した。そうすると、エンジン毎の設計や部品が大幅に省略され、製造工程におけるプロセスも削減できる。これによって大幅なコスト低減と性能アップが実現した。自社の強みに特化し、弱いところは他社から技術導入を図るというメリハリをつけている。しかも、強みを生かして「Be a driver」という個性を追求している。マツダがどこまで個性的なクルマメーカーに変身して、ブランド力を向上できるのか、大いに注目したい。