強みを磨いて企業価値を追求

2014/01/10

・CFOフォーラムジャパンでコマツの坂根正弘氏の話を聴いた。坂根相談役は、コマツの9代目の社長で、現在の大橋社長は11代目である。コマツの創業者は竹内明太郎で、吉田茂の兄である。日産自動車の創立にも関わっており、ダットサン(DATSUN)のTは竹内のTである。

・坂根氏は社長の時、「日本国籍グローバル企業」になると決めた。世界トップの米国キャタピラーは、その時規模で1.8倍。自社の弱みを議論しても仕方がないと考えた。強みを磨くことに集中した。

・その場合、ビジネスモデル(BM)で先行する必要がある。BMで先行すれば現場力を活かすことができる。日本の多くの企業は現場力を強調するが、肝心のBMで遅れをとってしまうことが多いと指摘する。

・本質は企業価値の追求であるが、その方策についてはまだ確立していない、と坂根氏は言う。但し、考え方についてははっきりしており、あらゆるステークホールダーの信頼度の総和が企業価値であると定義する。

・ステークホールダーには、価値を創出する人、価値を評価する人、価値と共存する人がおり、それぞれの信頼度を高める必要がある。その中で、価値を創る人、つまり顧客の信頼度が最も重要であると考え、ブランドマネジメントを本格化させた。それが2006年からスタートさせた「コマツウエイ」への挑戦である。

・坂根氏は2001年に社長になった。営業赤字に陥っていた。多くの企業は景気がダウンしても雇用を守りたいといろいろな事業に手を出す。坂根氏は1位、2位になりうるもの以外はやらないと決めた。日本で700種類もあった製品の半分をやめた。300社ほどあった子会社も3分の1は整理した。

・3位以下の多角化はビジネスにならないと判断した。シリコンウェハーは止めた。本社におけるITの自前主義も止めた。人はやっている仕事を是とする。米国でM&Aを実施した時に、ITについて本社も既製服を着ると決めた。これがその後のIT展開において、大いなる効果をもたらした。日本企業のホワイトカラーの生産性の低さは、日本における価値観の問題でもあると指摘する。

・コマツは世界の30万社と建設機械、鉱山機械などで取引をしている。その顧客をレベル1からレベル7まで分けている。レベル7は鉱山のITシステムまで全てコマツに頼って、コマツから離れられない優良顧客である。このITの仕組みは米国の企業を買収して作っていった。ビジネスモデル(BM)での先行は、この買収企業の力に依存しており、日本の本社の自力だけでは難しかったと強調する。

・レベル1は、出入り禁止の会社である。どの会社にも、そういう取引先がある。コマツの場合は、昭和40年代の先方が苦しい時に、当方の理由だけでさっさと商品や取引を引きあげた顧客である。信用はなかなか取り戻せないのである。

・コマツは、コムトラックスで33万台の建設機械にセンサーを付けて、その稼働をGPSでみている。ダンプトラックの無人トラックは、鉱山のITシステムと連動して動かしている、これはまさにBMで先行し、成功した。

・ダントツ商品を出しても、競合企業は追いついてくる、ダントツサービスを提供してもいずれ追い付いてくる。しかし、ダントツソリューションまでくると、コマツでないと困るということになって、他社では真似ができない。

・全部に負けない商品を作ろうとすると、ニーズに合わないガラパゴス(高品質、高価格)になってしまう。そこで、坂根氏は、負けていいところを出せ、と現場に要求した。負けてよいところを活かすと、コストが下がる。そのコストを攻めに使うという作戦をとった。

・企業価値を追求して会社を強くするには、社長が変わっても、それが続くことが求められる。それにはどうするか。ガバナンスのレベルアップができるかどうかであると断言する。

・社外取締役を入れても機能しないという経営者がいるが、それは詭弁であると喝破する。取締役会の議題を、①報告、②討議、③決議の3つに分けよ。社外取締役に決議から入れといってもそれは無理である。大きなテーマは報告から入っていけば、重要な決議についても、きちんと意見が言える。社外取締役の重要性をよくわかった上で、自らそれを要求し実行している。

・社長の時、A4のレポート1枚をフラッシュレポートとして報告させた。そこには、最初にバットニュースを書けと指示し、実践した、ルールを決めても、法律ですら時代が変わると現実に合わなくなる。何よりも事実を隠すことが、判断を遅らせ誤る。そこで、分って隠した人を厳しく罰することにした。一方で、早く白状した人は許すことにしている。それでも人は隠す。そうさせないためには、念仏のように唱えて、やり続けていくことであるという。

・坂根氏の話は全て実践した実話である。会長の時には年に100回は講演して、さまざまな人々を鼓舞してきた。ドイツに学べ、地方を元気にせよ、名目こそ大事、攻撃は最大の防御、隗より始めよ、など大いに参考になる示唆がまだまだあった。その中で、企業価値創造におけるステークホールダーの信頼度の統合をどう考えるかは、今後の課題であろう。

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