境界の壁に挑む日立の社会イノベーション
・日立イノベーションフォーラム(2013年11月)で、中西社長の話を聴いた。このフォーラムで話を聴くのは、3年連続3回目である。話の内容は年々充実しており、自信が感じられた。私自身の日立製作所の対する企業評価も毎年1ランクずつ上がっている。
・世界経済の成長にとって、直接投資の果たす役割は大きいと中西社長は言う。対外直接投資は国境を超えていくので、そこに成長の源泉がある。新興国はインフラが不足しており、社会インフラの整備こそ課題である。
・一方、先進国は成長の伸び悩みに直面している。日本では、少子高齢化、社会保障の負担、外交的軋轢、地方の疲弊など、サステナビリティへの対応が求められる。ソリューションの方向は、①集中から分散へ、②所有から共有へ、③消費から循環へ向かうという。
・イノベーションの領域としては、グローバル連携、社会インフラの高度化、産業の高度化、ネットワークのオープン化などがあり、その中で社会イノベーションを起こすには、①時間、距離、空間の壁、②制度・規制の壁、③組織の壁を乗り越えていく必要がある。また、資源としてのビックデータも大いに活用して、新しいサービスを創出する。
・日立は社会イノベーションとして8つの領域を定めている。エネルギー、都市、水、ロジスティックス、交通、ビックデータ、ヘルスケア、金融である。これらにIT(情報技術)、OT(オペレーションテクノロジー、仕組みを動かしていく技術)、ものづくりを組み合わせて、トータルソリューションを提供していくという考えだ。
・交通ソリューションにおける予兆診断、建機のセンサーによる資産稼働率の向上、エネルギーコストの削減における成功報酬型収入の導入、水の漏水率を大幅に改善するインテリジェントウォーター、ヘルスデータの活用のよる病気予防提案など、様々な実績を上げつつある。
・今後の課題は、境界の壁に挑むことである。今やヒト、モノ、カネというリソースは壁を超えて動く。ヒトが起点となって需要が創出されていく。マスでなく、いかに個を追いかけていくかがポイントであると強調する。
・いいものを作れば売れる。これは間違っていないが、現実はそうでもない、と中西社長はいう。マスマーケットでコモディティ化してしまえば、価格は下がって利益は出ない。顧客に本当に必要なものを届けていないから、そうなってしまうのだ。
・マスではなく、個別のニーズを追いかけていくにはITによる情報が鍵を握る。知識の共有とともに経験の共有を通して、サービスを革新していく。データを見て、求められているものをサービスとして取り出して、それをビジネスにしていく。
・おもてなし、きめ細やかさ、という日本の良さは大事にするが、一人よがりにならないように、世界の中でコラボ(協創)できるように強みを融合していく。日立は世界とコラボしながらサービス革新を追求する。3つの境界の壁を超える仕組みを作り、サービスをインフラとして提供する。これが日立のいう社会イノベーションである。
・日立は社会イノベーションをB to Sで行う。Business to Society のことで、コミュニティの中で、サービス+IT +プロダクトをビジネスにする。このことはCSRそのものであると、中西社長は話す。つまり、CSRそのものをビジネスにすると宣言している。これは画期的な視点である。それを通して社会インフラを作るのだと強調する。
・社会イノベーションを標榜して3年半、ようやく社内が分ってきた。社会イノベーションって何ではなく、社会イノベーションを作っていこう、という局面に入ってきた、という指摘は印象深い。
・まさに新ビジネスが社内に浸透してきた、と中西社長は感じている。その上で社員に問う。本当にあなたの作ったプロダクトやサービスが、世の中でバリューがあるといわれていますか。バリューがあれば利益が入るはず。では、儲かっていますか。そうすると、上を向く社員と下を向く社員がいる。価値を利益に結びつけるプロセスが確実に進行しているといえよう。投資家はまさに、このビジネスモデルにある‘価値創造プロセスの進化’を知りたいのである。