ダイバーシティとパフォーマンス
・9月にMETI(経産省)の板本経済社会政策室長の話を聴いた。それを参考に、ダイバーシティを進めると企業のパフォーマンスは上がるのか、という点について考えてみる。ダイバーシティと会社の業績は関係ないという人もいよう。関係があるかもしれないが、それを実証することは難しいという人もいよう。ここでは、株式市場の視点からダイバーシティがパフォーマンスの向上に貢献するかどうかの蓋然性について検討する。
・日本全体でみれば人口は減っていく。しかも高齢者が増えて、実際に働ける人も減っていく。高齢者にも働いてもらわないと立ち行かない。それ以上に女性にもっと働いてもらうことが重要である。外国人を入れて働く機会を増やすことも必要だが、雇用環境や社会的コスト面からまだ合意は得られていない。女性が働くことはすぐにでもできるし、現実に働いている人も多い。
・問題は、機会均等が実質的に行き亘っていないことにある。保育所が足らない。アベノミクスでも目玉政策の1つとして取りかかっているが、まだ不十分である。仕事を続ける仕組みがもっとほしいと誰もが思う。男子に向いた仕事、女子に向いた仕事があるというが、本当だろうか。男性の方が長期的に働く可能性が高いので、鍛えがいがあるという。そうだろうか。女性の働き易い職場にするとコストがかかるので、率先してはやりたくない、と考えているのかもしれない。本当に割に合わないのだろうか。
・1つはっきりしていることがある、男性中心の会社の中で、仕事を頑張って昇進し管理職になった人は、自らの経験として男性の上司や先輩の育てられた経験はあっても、女性からのそれはない。自らが上司になった時に、部下の育て方には、体験的に学んだものが滲み出てくる。その体験がない人に女性は育てられそうにない。
・しかし、男性中心では限界がみえている。女性の潜在労働力は300万人もいるという。GDPの1.5%に相当する。現在、上場企業3608社の中で、女性の役員(執行役員も含む)は505人、全体の1.2%である。女性の管理職は2012年で11.1%、欧米の30~40%に比べて低い。
・待機児童は対策を打っても、どんどん増えていく可能性がある、つまり、子どもが預けられるなら私も働き続けよう、私も子どもをつくろう、という人が増えてくるからである。これはよいことなので、保育環境を大幅に改善する必要がある。これを成長投資と考えれば、人材、施設に大いにお金を使ってよい。子育て経験を持ち、資格を有する人は数多い。新しい資格制度で人材を育ててもよい。
・女性を活用している会社は、業績がよい、利益率が高い、生産性も高いという。女性の役員がいると株価の落ち込みが少なく、回復も早いという。生活者としてみると、購買決定権の6~7割は女性にある。その消費者としての女性がよくわかるのは、やはり女性であろう。女性は男性と違った側面で、リスク管理能力が高い。女性を活用する会社には優秀な人材が集まってくる。女性を活用する仕組み作りで先行するということは、そのまま競争力の強化に結び付くという考えである。
・女性は出産を機に6割が離職するという。育児休暇も十分活かされていない。働きながら子育てをするには大変である。男性や職場、社会の協力が不可欠である。何が最も肝心なことか。自ら実践したことであるが、簡単で重要なことがある。それは、会社中心人間をやめることである。仕事は大事である。しかし、仕事が全てではない。両立を支援するとともに、両立のための考え方を見直す必要がある。出世を諦める必要はない。上昇志向で頑張ってほしい。しかし、そのために、子どもが熱を出しても女性に任せて、男性が会社に行くようでは、不十分である。半日くらい休んでも会社は回っていく。そのような会社になっていないと、会社にも問題がある。
・家庭に入っている女性の能力をもっと活かす工夫も始まっている。在宅勤務ができるようになってきた。パートタイムであっても、その人ならではの経験や能力を活かした方が互いに得である。それに見合って報酬を出す仕組みも工夫する必要がある。インセンティブの活かし方がポイントであろう。
・大事なことは、CSRに優れているから会社のパフォーマンスがよいという理屈ではなく、CSRを企業価値創造にきちんと組み込む経営を展開しているかどうかである。組み入れれば価値が必ず上がるとはいえないが、ダイバーシティの推進は企業価値創造に必須の条件である、そのビジネスモデル作りのリーダーシップが問われている。先行する企業のパフォーマンスが良くなる蓋然性は高い、というのは論理的に頷けよう。