イノベーションと起業に必要な絆

2013/10/28

・起業しようと考える人は数多くいよう。しかし、現実に起業出来る人は多くない。起業しても上手くいかないことが多い。失敗したら取り返しがつかない。借金を背負ってしまったら、その後の生活も立ち行かない、と考えてしまう。リスク以上に、不確定性が不安となって、尻込みしてしまうのかもしれない。

・では、起業を考える人は、どんなイノベーションを実現しようとしているのだろうか。何か新しいことがなければ、すでに誰かのやっている物真似でしかない。物真似で上手くいくこともあるが、それだけでは不十分であろう。例えば、フランチャイズの仲間に入ってもよいが、そのフランチャイズ店がどこまで差別化できるような特徴をもっているか。そこで働く自分は、与えられた仕組みの中で一定の力を出せば、それで満足できるかもしれない。しかし、それで十分だろうか。

・歳をとると、一日、一年の過ぎる時間が早く感じられるようになる。逆に、毎日が早く過ぎていくようなら、それは忙しいともいえるが、マンネリの中で新しいことをやっていない証であるともいえる。

・茂木健一郎氏によると、脳は基本的に怠け者で、できるだけ同じことを要領よくやろうとする。一定の知識や経験を積むと、日々の活動はその範囲の中で、大して考えることもなく出来てしまう。そうすると脳は働かない。脳が楽をしていると、一日は早く過ぎていく。一方、新しい体験をすると、その時の一日は長いし、様々な刺激で脳は今まで経験していない情報に接して、フル回転でそれを咀嚼しようとする。経験上、確かにそうである。

・私は、「人生はイベントだ」と思ってきた。記憶に残る出来事、これをやったと書き残せる仕事に参加したことは、いつまでも覚えている。いつもの作業は大事であるが、それだけだと、1カ月前の1週間の具体的な内容を思い出すことすら難しくなってしまう。

・茂木氏は、能力、経験は必ず生きるが、そのためには“吸収する能力”(absorptive capacity)を高めておく必要があるという。準備していないと、イノベーションは起きないのである。セレンディピティ(偶然の幸運)に出会うには、①アクション(行動すること)、②アウェアネス(気付くこと)、③アクセプタンス(受け入れること)、が大事であると強調する。

・そのためには、いついていてはダメだという。‘いつく’とは、私の言葉で言えば、“取り憑かれる”ことであろう。集中という点では大事だが、それだけではブレークスルーは起きないという意味である。いつくのではなく、少し距離をおいて、その内容をみる自分が必要である。

・茂木氏は、時々頭を空っぽにするDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)にして、スタート台に戻ってみると、それが心のメンテナンスになり、新しい発想がうまれる、という。1人で何でもやる必要はない。異質なパートナーと組むことが新しい気付きを生み、行動が実現性を高める。その時に‘weak tie’(弱い結びつき)が重要な役割を果たすという。

・同質な人が強力に組んでも現状の行き詰まりを打破することは難しい。少し遠くにいる普段付き合いの少ない別の領域の人が、思わぬアイデアを触発する時がある。普段と違う新しいものごとに出会うには、周りの人々や環境にやさしく接していることが大事で、そこで生まれる感情を自分に取り込んでいくことが、気付きを生むと茂木氏は強調する。

・大企業の中で、ぜひイノベーションを起こしてほしい。企業として、イノベーションを生み出す仕組みをどこまで内包できるかが課題である。いま企業で働く人は、その企業を飛び出して起業できるだろうか、自らの個性を磨いて、イノベーションのアイデアを事業として推進できるかどうかを突き詰めておく必要がある。

・利害で集まった集団は意外に脆い。志で意気投合するもっと強い絆が必要である。一方で、‘weak tie’も大事にしたい。強い絆と弱い絆のバランスが大切であると、茂木氏の講演を聞きながら感じた。

・調べてみると、コーエンとレヴィンタールが1990年に、企業の吸収能力(absorptive capacity)がイノベーションにとって決定的に重要であると発表している。個人と組織の吸収能力を論じており、コミュニケーションのあり方や組織の発展過程が大きく作用する。とりわけ、初期にきちんと投資しないと、その後の発展がおぼつかないというのは実感として納得できる。

・‘the strength of weak ties’(弱い紐帯の強み)は、マーク・グラノヴェッターが1973年に論じた洞察で、弱い繋がりの方が新しい情報源として役立つという可能性を示した。普段あまり付き合いのない人の方が、自分の知らない知識に接する機会が多いというのも、なるほどと実感できる。そのためにも場を広げて、談論風発をしたいが、くれぐれも一方的に声の大きい人にならないように注意したいと思う。

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