CFOの視点からみた企業評価
・日本に今必要なものは何か。それは、インベストメントとガバナンスであろう。もっと大胆な投資をする必要がある。投資機会は広がっている。日本人中心でなくてよい。組織と人材の仕組み革新に挑戦し、成果を上げている企業が日本企業にもいろいろ出始めている。
・リーダーシップをもっと発揮してほしいと思いつつ、ワンマンで暴走してもらっては困る。逆に、自己の利益を優先して、リスクを取らず、リスクマネジメントができないようでは、マネジメントの資質が問われる。いい意味での緊張感をもたらすように、ガバナンスを一段と改革する必要がある。
・アベノミクスで、競争の土俵は広がりそうである。いかに価値を作り出すかは企業にかかっている。企業の挑戦は、投資家にとってもチャンス到来である。企業家と投資家の創発が日本の再生に結びつくように、それぞれの立場で実践したい。
・監査法人のセミナーでCEOやCFO(最高財務責任者)の話を聴いた。CFOの役割は何か、CEOとはどのような関係を保つべきかなど、興味深い意見は、投資家が企業を見る時にも大いに参考になろう。
・一橋大学の伊藤邦雄教授は、日本企業は長らくイノベーティブ(革新的)と言われながら、収益力に関しては、持続的に低収益に甘んじている。その要因として、①アクセルとブレーキが十分効いていない可能性、②投資回収を本気で考えていない可能性、③リスク感覚が磨かれていない可能性、を指摘する。では、どうしたらよいのだろうか。
・富士フイルムの元副社長兼CFOで、古森CEOの懐刀であった高橋俊雄氏は、会社としての永続的な強みを棚卸せよという。その上で、どういう会社になりたいのかの姿を描く。マネジメント オブ コア・コンピテンス(MOC)の追求こそ本筋であると強調する。CFOは会社が攻める時も守る時も「最後の砦」であるから、社長との信頼関係が命である。
・リクシル(Lixil、住生活グループ)の藤森社長は、長年GEで働き、GE流のグローバルマネジメントを身に付けてきた。リクシルのCEOになってからは、海外のM&Aを次々と仕掛けている。GEのコア・コンビタンスはファイナンスとHR(ヒューマン・リソース)であると強調する。本業を果敢に追求するのにファイナンス(財務)とHR(人材)は欠かせないからである。組織の長になったものは、CFOとHRの責任者は自ら選任すべきであるとして、それを実践している。最も信頼すべき両輪を配置して初めて、徹底的に攻めることができるわけだ。
・藤森社長は、CFO = CEO + ファイナンス であると定義する。つまり、財務が分るだけでなく、CEOもできるようなマネジメント能力をもって、社長をサポートする。さらに、グローバル経営を展開する上での5つのキーワードを挙げる。①ローカル化、②ダイバーシティ、③共通のコア・バリューとそれを支える人事制度、④グローバル人材の育成、⑤リバース・エンジニアリング、である。今、それを本格化させようとしている。
・三井物産の岡田常務は、耳の痛い話をトップマネジメントにいかに早く上げるか、それがCFOの役割であると強調する。そのためには、トップへのインプットの仕方を工夫する必要がある。タイミングを見て何度もいうことが求められる。CFOとして、会計の数字を単に説明するだけでなく、その前提となる会計のルールやその意味、成り立ちまで、トップマネジメントに納得するまで説明する。
・味の素の大野常務は、事業部門のトップが事業の行く末について判断できるような仕組みをCFOとして作っていくべきであると指摘する。事業部門長は自らその事業をギブアップすることはできない。しかし、例えば減損のルールをベースに、ファイナンス(財務)の判断を入れていくと、決断できるようになる。つまり、事業ストーリーとファイナンスストーリーをいかに一致させていくかが重要である。
・いずれにおいても、トップマネジメントの資質とそれを支える仕組みが問われる。投資家は会社説明会でCFOの話を聴く機会も多い。財務データの解説も重要であるが、経営そのものについても大いに語ってほしい。CEOと二人三脚であれば、マネジメントの臨場感は一層伝わってこよう。
・投資家としては、1)その会社の永続的な強みは何か、2)コア・コンビタンスをいかに磨いているか、3)CEOとCFOがうまくアクセルとブレーキを踏んでいけるか、4)事業ストーリーとファイナンスストーリーが合致しているか、5)グローバル経営の5つのキーファクターにどう取り組んでいるか、という視点は、その会社の企業価値を知る上で必須の要素であり、ぜひとも知りたいところである。