株式インセンティブの効果はいかに

2025/11/24

・かつて上場会社の子会社で働いていた。未上場であったので、社員持株会は親会社のものであった。親会社のストックオプションが制度化された。しかし、親会社の業績は低迷したので、ストックオプションを権利行使することは一度もなかった。その後、子会社は上場して、大きく成長した。しかし、子会社の株式は持っていなかったので、そのリターンは得られなかった。

・このケースは残念であったとしかいいようがない。子会社が上場した時、個別に自分でその株式を購入していれば、リターンを得ることができたであろう。親会社の業績低迷は誰のせいであろうか。歴代の経営陣のせいなのか。従業員にも責任があったといえるのか。

・自分の働いている会社が伸びるのであれば、株式インセンティブの効果は高い。そうでないと思うならば、自社の株式ではなく、間違いなく伸びる会社の株式を買って、そのポートフォリオを自ら作っておいた方が、リターンは高まろう。

・しかし、先はなかなか読めない。自社の良さと悪さは、その会社で働いているからといって見通せるものではない。とかく粗だけが目立ってくるかもしれない。隣の芝生は青く見えるというが、いい会社を見抜くのも容易ではない。

・働く報酬はどのような形がよいのか。正社員とパート・アルバイトに大きな差がある会社は、本当に持続力があるのだろうか。正社員の報酬は基本給とボーナスに分かれるが、ボーナスはどのくらいの水準と変動が望ましいであろうか。

・人手不足の中で、基本給のアップがトレンドになりつつあるが、基本給は同業他社との比較でどのように決めていくのであろうか。

・社員にとっては、働き甲斐が最も大切であろう。同時に、働きやすさも重視される。好きな仕事だけできればよいが、そうはいかない。業務というのは、好き嫌いに関わらず、きちんとこなす必要がある。

・業務を改善し、成果をあげ、自らの能力も高まっていくと感じられれば、やりがいは高まろう。成果に見合って報酬が上がっていくならばありがたい。

・ところが、成果に報酬が見合っていないと感じる従業員は多いと思う。自分が思うほど会社は評価してくれない、というのが世の常である。

・1)評価には個人差がある。評価者によるギャップをできるだけないようにしてほしい、2)評価は相対的である。自分が頑張っても、もっと頑張っている人からみれば、評価は低くなる。3)評価は中長期である。短期的には十分反映されないことも多い。

・働きやすさも、ますます重要になっている。ワークライフバランスが図られ、仕事以外の家庭での生活が適切に成り立たないと、仕事にも影響してくる。共働き、子育て、介護、病気などへの対応や、趣味、レジャー、副業、リスキリングなどへの配慮も必要になっている。

・人材は取り合いであり、定着にはやりがいを感じてもらうことである。人材の流動性は高まっている。選び、選ばれる関係をいかに作っていくか。人材戦略のリーダーシップが問われる。

・従業員エンゲージメントを高めていくことが社内で可視化され、それが社外にも見えてくるならば、良い会社としての認識が高まってこよう。

・従業員の経済的報酬はどのような構成が望ましいのか。筆者は基本給50%、ボーナス30%、中長期の株式報酬20%が望ましいと思うが、いかがであろう。

・会社の業績が伸びれば問題はないが、業績が落ち込んだり、低迷したりした時に、従業員はどう反応するか。報酬に一定のフレキシビリティは確保しつつ、業績が回復した時の報酬の復元も共有できることが求められる。

・PBR=ROE×PERという関係式において、ROEを高めるにはまずは売上高付加価値率を高めて、十分な労働分配率を確保した上で、利益率を高める。一方で、純資産を余分に高める必要はない。

・日本のソニーグループは、PBR 3.99倍=ROE 11.7%×PER 34.1倍である。米国のアップルは、PBR 69.7倍=ROE 179.6%×PER 38.8倍と、ROEが決定的に異なり、PBRにもそれが反映されている。

・人的資本投資が企業価値の向上に寄与するのであれば、その成果が享受できるように、従業員向け株式インセンティブ制度も充実すべきであり、その方向に一段と拍車がかかってこよう。

・従業員持株会への参加促進とともに、自社株報酬の拡大も有力な方策である。これによって、中長期での企業価値向上への取り組みを強化し、優秀な人材のリテンション(保持)に役立つ。

・譲渡制限付株式報酬制度(RS:Restricted Stock)の導入企業が増えている。株主と同じ目線で企業価値向上へのインセンティブを付与することができる。

・スタートアップ企業のインセンティブとしても大きく機能しよう。経営幹部だけでなく、一定レベル以上の従業員全員に参加を促す効果は大きい。全社員が一体となろう。

・制度的には今後の改善余地も大きいが、会社が成長を続けることに貢献しつつ、そのリターンが自らにも大きく返ってくることはこの上なくうれしい。中長期の株主は、従業員とともに成果を享受することができる。こういう会社に継続的に投資したいものである。

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