2つのIR
・企業を評価する時の一番のポイントは何か。昔も今も圧倒的に経営者の力量である。経営トップのビジョン、リーダーシップ、戦略の構築と実行力が問われる。
・投資家やアナリストは、何よりも経営者をみる。経営者の話を聴いて、有言実行の度合いを評価する。5年経って、実績がすべて出てから投資したのでは遅い。今、経営陣のパフォーマンスをどう見極めるか。これが鍵だが、かなり難しい。
・創業者が現役トップである時は、すでに実績も出ているので、評価しやすい。2代目、3代目となると、創業者に比べて見劣りすることが多い。しかし、創業者を超えて、企業を脱皮させていく後継者もいるので、その時は心強い。
・サラリーマン経営者になると、まずはトップになる前までの実績をみることになる。どうしてトップに選ばれたのか。その選任理由からトップとしての潜在能力を評価したいが、なかなか分かりにくい。
・そこで、もっと組織の中身をみる必要がある。CEOの他に、CFOやCHROなど、CXOにインタビューして、その戦略を聞きたくなる。同時に各事業部門のトップに、オペレーションの実態を聞きたい。
・国内外の拠点に行って、現地を見学しながら話を聞きたい。研究開発拠点、生産拠点、販売拠点、その会社をとりまくサプライチェーンにも広げて訪問したい。
・多様な情報収集を通して、企業の実態を理解したいという狙いと同時に、それぞれの場面で出会う人材の資質や役割から、人的資本や組織資本のクオリティを知ることも重要な調査である。
・人的資本のリーダーシップはいかに測るのか。後継者人材の測り方はどうするのか。人的資本に関する情報開示のガイドラインがISO(国際標準化機構)から出されている。ダイバーシティ、スキル、組織文化まで幅広い。
・かつての内部育成、コツコツ型のピラミッド組織では、企業の力は十分発揮されない。マーケットをグローバルに捉えて、国内においてもグローバルに通用する仕組みに変革しないと、人は集まってこない。
・専門家としての深掘り人材の育成と採用、若いうちから経営人材への抜擢では、プロをマネージしていくプロデューサーのようなマネジメント能力が問われる。見い出して獲得、トレーニングして育成、プールして保持、これらを確実に実行するコーチングとメンタリングが必須であると、岩本教授(慶大)は指摘する。
・人的資本をいかに定量化するのか。経歴を測るのか。仕事の実績を測るのか。今持っている能力を測るのか。将来の潜在能力を測るのか。これらを全社的に共通のデータベースで揃えたいという思いは、どの企業にもあろう。特定の上司の定性評価だけでうまくいくはずがない。
・能力を上げるには、スキルを習得する必要がある。現場でのOJTで十分なのか。会社での内部研修、外部での特別研修、それともスカウト人材の活用なのか。能力が低くては、それなりの貢献に留まる。能力を発揮するには、ふさわしい場が必要で、チャンスがなければ伸びない。
・コンピテンシー(能力)、スキル(技量)、パフォーマンス(実績)を3軸で評価して、高付加価値に結び付くかどうかをみていく。企業内でいかに実践しているか。開示をみて、それが価値向上に効いているか。その上で、人的資本の能力がどのレベルにあるかを評価していく。
・「人的資本理論の実証化研究会」(福原座長)では、2つの軸からレーティングしている。1つは、人的資本の投資対象を明示しているか。もう1つは、人的資本投資の評価指標を定めているか。各々5段階評価で点数化し、企業間の比較をしながら、人的資本投資のレベル向上を目指している。
・人的資本投資でROICやROEは上がるのか。その因果関係はどのようなフローで実証化されるのか。スキルアップで本当の実態が分かるのか。まだ不透明なところが多い。
・人的資本について、統合報告(Integrated Reporting)での開示が始まっている。投資家とのミーティングでも、IR(Investors Relations)部門は人的資本に関する対話に力を入れ始めた。
・非財務資本こそが、企業のサステナビリティのコアであり、ESGの充実が問われている。一方で、ESGの実践がどのように財務数値に結び付いてくるのか。このプロセスをビジネスモデルで示さなければ、企業価値向上には結び付かない。
・ここがみえなければ、投資家はその企業を高く評価しない。評価されないなら、一生懸命やる必要はないと考える企業も続出しよう。これでは悪循環である。
・好循環に持ち込むには、投資家サイドがESGインテグレーションの評価法を精緻化して、企業評価に実践的に用いることである。アクティブ投資家が強い対話を求めていくことである。
・企業サイドは統合報告(IR)を充実させ、IR(投資家との対話)を一段と充実させることである。2つのIRのもう一段の充実を図ってほしい。その上で、価値向上が実感できる企業に投資したい。