危機との共存の中で
・ベトナム戦争は、米国とベトナムの戦いであった。戦争であるから、相当ひどい状態が日常化した。後にベトナム戦争の跡地を見学したことがあるが、ベトコンはよくぞ戦ったという悲惨さをとどめている。ベトナム戦争が終わってすでに50年、世の中は一変している。
・ウクライナ戦争も悲惨さを増している。勝てないと分かって、引くしかない状況を、いかに作り出すか。その間の犠牲者は膨大な数に上ろう。ロシアとウクライナの戦いではあるが、ウクライナの裏にはNATOと米国がついている。いわば代理戦争の様相を呈している。
・これが台湾戦争として、アジアに飛び火してくるのか。米中紛争は十分想定しておく必要がある。なぜか。互いに自らの価値観を是として、他を否定すれば、力でねじ伏せるしかない。暴力優先の本能だけとすれば、未来は危うい。
・米中対立は、どう折り合いをつけるのか。共存を前提として、生きる道を探したい。しかし、軍事的な守りを強化すべく、軍拡競争は一段と高まっている。軍需産業も活況を呈している。戦争があれば装備が必要であり、その準備と実践での消耗をカバーする必要がある。
・貿易、投資の両面で、地政学的リスクは高まっており、サプライチェーンの安全地帯へのシフトが必要になっている。エネルギー、食料、ヘルスケアで、途上国を含めて甚大な影響が出ている。まずは自国だけを守ることを優先すれば、アフリカなどの弱い国々は悲惨なことになろう。
・中国の構造問題に対して、ネクストチャイナとしてのアセアン(ベトナム、インドネシア)やインドが注目されよう。GDPでみると、中国の18兆ドルに対して、アセアン3.5兆ドル、インド3.0兆ドルであるから、まだこれからである。
・経済の栄枯盛衰は国境を超えていく。ロシアはすでに大国ではなくなっているのに、それに我慢できない独裁者が無謀な侵略に打って出た。いずれもう一段落ち込むであろう。
・中国は、人口動態からみて、これから高齢化が進む。経済成長の仕組みを変えていく必要があるが、一党独裁という組織を崩すことは相当難しい。
・世界は分断(デカップリング)の中で、縮小していくのか。そうなればパイの取り合いになり、地域紛争は激化しよう。リスクを減らすには貿易、観光などの経済社会活動を通してコミュニケーションを続けることであろう。
・気候変動、カーボンニュートラルの追求には、イノベーションが不可欠である。米中対立と経済安全保障の中で、ハイテク規制は、イノベーションの制約となる。AIの新しい規制も、それを前提にオートメーションは進展しよう。
・日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:ホイップ、Free and Open Indo-Pacific)について、岸田首相は「価値観を一方的に押し付けない、特定の国を排除しない考え方を共有すること」の重要さを強調する。
・理念として、正にその通りである。国連始め、既存の仕組みはかなり制度疲労を起こしており、機能しないことも多い。ならば、新しい仕組みで対応ということであろうが、そこには次の利害対立がある。
・重要産業でみると、半導体の新しいサプライチェーンが形成されよう。半導体生産の国内回帰(リショアリング)に期待は大きいが、本当にうまくいくのか。需要はあるので、リスクは少ないとみられる。ただ、イノベーションと紛争はつきものであるから、十分注意したい。
・生活基盤の確保に関して、少子化への対応は依然としてみえない。日本の地位は世界的に低下している。規模での存在感ではマイナーになりつつある。打って出る道はあるのだろか。有力な方策はロボットの活用で、あらゆる分野で人的不足をカバーするために、開発と導入が一段と加速しよう。
・世界の地政学的リスクに目を凝らしながらも、日本の株式市場は活況である。今後とも続くであろうか。デフレ経済からの脱却に期待が高まっている。インフレ型の経済がうまく回っていくにはまだ条件が十分整っていない。
・インフレと賃金上昇の好循環が生まれるか。円安とインバウンド効果で、国内経済は回復が続こう。日銀の金融政策はいずれ変更されると分かっていても、その局面では一定のリパーカッション(反作用)が出よう。
・東証のPBR 1倍割れ企業への対応提言と人的資本価値の開示要請は、企業経営に大きな変化をもたらすものと予想される。来年からスタートする新NISAも、いずれインパクトを持ってこよう。
・企業業績を反映して日経平均が4万円を超えるという見方も、妙な強気ではなくなりつつある。30年ぶりの変化に期待が高まろう。