日産自動車は日系か外資系か
・カルロス・ゴーンCEOが日産に来て13年。当初は日産を再生させることに力を入れた。しかし、ターンアラウンドとサステナビリティは別だ、とゴーン氏は言う。2011年度から2016年度までの中期6カ年計画では、成長とサステナビリティを追求している。
・今回の中期経営計画「日産パワー88」では、世界シェア8%、売上高営業利益8%を目指している。欧州危機の深刻化、円高の進行、日中関係の緊張など、いずれもこれほどになるとは想定していなかった。しかし、予想外のことは起きるもので、それは経営の前提である、とゴーン氏は気にしない。
・中期計画は何のために作るのか。それは戦うビジョンを共有して、足並みを揃えるためであるという。グローバル経済の行方について、経済の鈍化、中国とのフリクションはあるが、世界の自動車市場は伸びている。成長市場にエクスポージャーがあれば、つまり一定の存在感があれば、企業として十分伸びていけるという見方だ。
・その中で、中国の問題はどうか。日産は車の4分の1を中国で生産している。中国は年7.5%のGDP成長はできる。今後5年をみて自動車市場は伸びていく。よって、打つ手はあると、ビクともしていない。中国の事業リスクについて、ゴーン氏は、1)経済的リスクは少ない、2)政治リスクは理屈だけではない、3)中国と日本、中国と欧米は補完性があるので、時間がかかっても平常化に向かうはずである、とみている。
・グローバル化とローカル化について、日産は次のように対応していく。今後もグローバル化は止まらない。その中で、共通項は維持しながら、違いはますます重視される。人の好みが皆同じになるはずはないからだ。共通性を特定しつつ、独自性を持たせていく方向である。実際、中国とインド、ブラジルやロシアは新興国といっても全く異なる。
・では、日本にどれだけオペレーション(工場)を残すのか。どこの国でも経営者は自国に工場を残したい、米国でもフランスでも同じであると、ゴーン氏はいう。しかし、日本では歴史的円高が続いている。まずは、円高を是正して中立にしてほしい。そうすれば付加価値の高い商品は残るし、マザー工場は残せる。ゴーン氏は、中立的な為替レートの水準は1ドル100円であるという。80円では高すぎる。政府も日銀も頑張るという掛け声だけではなく、結果を出すことだ。1ドル100円に戻すことはできるのだから、速やかに対応してほしいと考えている。
・しかし、ゴーン氏は、どんなシチュエーションにあっても経営が健全に続けられるように、手は打っていく。1ドル80円なら、日本に残る工場は減る。それでも企業は対応していくので構わないが、日本にとっては厳しい選択になると指摘する。
・ゴーン氏は現在58歳、2005年からはルノーの社長も兼務している。どうやって2社の
社長を兼務しているのか。実は、すでにかなり権限を委譲している。日産とルノーはアライアンスを組んでいるが、全く別の会社である。シナジーを出すために、マインドセット(心構え)を重視する。シナジーを具体的に追求すべく、現在10本のプロジェクトを推進している。
・どういう人材が望まれるのか。この問いに対して、ゴーン氏は、(1)パッション(情熱)のある人、(2)共感能力のある人、(3)周りを説得できる人の3つを挙げた。実際、変革を実現するためのリーダーは大変である。1000回戦っても、へこたれない強さが求められる。同時にシンパシーをもって、人の話をきいて、人の心に訴えることのできる人でないと、共感は得られないともいう。
・そういう人材を育てるには、まずビジネスとしてのニーズを明確にし、全社共通のプロジェクトを立てる。そして、オーナーシップ(誰が責任者か)をはっきりさせる。人は自らが当事者であると認識し、社会的に重要な役割を担うと理解し、自らの説明責任を問われれば、やる気を出す。ここに参画させれば、人は育っていくという考えだ。
・日産社内の共通語はすべて英語である。英語が出来ないとリーダーにはなれない。その意味で日産は外資系である。しかし、言っていること、実践していることは普遍的で説得力がある。日系企業だから、外資系企業だからということではない。つまり、日系、外資系という色分けが、もはや古いということであろう。