独立取締役は何を取り締まるのか
・独立取締役を選任する企業が増えている。東京証券取引所編著で、「独立役員実務」というハンドブックが出版された。それを読んでみると、独立役員(取締役、監査役)に求める独立の意義や使命がまとめてある。
・独立の意味は、会社の業務執行から独立していることである。業務を担当していないから、客観的な立場で会社の中身をみることができる。会社との利害関係や利益相反がないことが基本である。では、誰の立場か。一般株主の立場である。大株主や、一定の株式をもって株主として発言できる機関投資家ではなく、少数株主の立場を重視して、会社を見る。
・独立取締役は誰を取り締まるのか。端的にいえば、それは社長を取り締まる。正しくは、取締役会の一員であるから、その一人として取締役会で決められる決議内容について、その中身をきちんと吟味して、決議に参加する。社内の業務執行を担当する取締役は、普段は社長の部下として仕事をしている。しかし、取締役会では、業務執行の代表である社長を取り締まるのであるから、場合によって容易でないことが生じる。第三者の立場で疑問や意見をぶつけ目を光らせることが、会社の業務執行に当って、適切な牽制や推進になることがある。いざとなれば、社長を解任する一票も有している。
・少数株主が不利にならないように、マネジメントが企業価値の向上に邁進しているかどうかを確認していく。そのためには、会社の業務内容や意思決定のプロセスをよく理解しておく必要がある。その上で、会社運営上の重要な決定事項をしっかり監督していく。決して、月一回の取締役会に出席して、黙って座って聞いていればよいというものではない。
・ハンドブックの中では、さまざまなことが指摘されているが、一般株主の視点で言えば、4つのことが重要である。それは、IRの場で投資家が社長に聞きたいことと同じである。1つは、社長の経営の考え方をよく知りたいということである。経営の理念やビジョン、具体的な戦略について、絶えずチェックしていく。2つ目は、どうしてそういう意思決定に至ったのか、例えば、既存事業の縮小、新商品の開発、新しい途上国への進出、新規事業のためのM&Aなど、さまざまな場面でどういうプランを立てて、実行しようとしているかを知りたい。
・3つ目は、資本コストを意識して、明示的に事業採算を検討しているか、しかもそれが妥当性をもっているかである。株主の立場でいえば、株式資本コスト(期待収益率)をはっきりさせて、何%のROEを求めていくかを示してほしい。もちろん、儲けを考えない事業などありえないが、そのプロセスにおいて、投資家にとっての収益性を明らかにしておく必要がある。
・4つ目は、これらの点について取締役会でしっかり質問して、納得のいく答えを引き出していくことである。これが独立取締役の役割である。岡目八目で、気のきいた話題提供をしていればよい、というような生易しいものではない。
・企業価値創造のプロセスに目を光らせて、コーポレート・ガバナンスの要となる役割を担うわけだ。ビジネスモデルの革新を、(1)経営者の経営力、(2)事業の成長性、(3)業績のリスクマネジメント、(4)企業のサステナビリティ、という視点から評価していく。この視点は、個人投資家がその会社へ投資する時に、必ず検討すべき4つの軸である。
・何よりも大事なことは、分るまでQ&Aを実行することである。そのような活動を独立取締役には求めたい。そして、私自信もそれを実践していく考えである。
(参考文献)「ハンドブック 独立役員の実務」、神田秀樹監修、株式会社東京証券取引所編著、商事法務、2012年11月。