中期戦略にM&Aをいかに組み込むか~チェンジのケース
・長期ビジョンを掲げ、その推進を中期計画で具体化していく。多くの企業にみられるが、では、その中期計画にM&Aをどのように組み込んでいくのか。外部の投資家から見る時、M&Aの案件が具体化してこないと、何とも評価のしようがない。
・案件が具体化しても、そのM&Aが本当に成立するのか。成立したとして、その後のPMI(買収後の経営統合)がうまくいくのか。通常はなかなか評価できない。さらに、のれんが大きすぎると、EBITDA(償却前営業利益)は増加しても、EPSが増えないということも起きる。ここをどう乗り越えていくのか。チェンジのケースで検討してみよう。
・チェンジは、ITのコンサル会社として5年前に上場した。上場した1年目の2017年9月期の営業利益は3億円であった。第1次の中期3カ年計画が2021年9月期で終了するが、営業利益の修正計画(58億円)を3Qまでにほぼ達成してしまった。
・達成が見えていたので、次の3カ年計画を2021年9月期の1Qが終わったところで公表した。次の3カ年計画では、3年目の2024年9月期で、M&Aを入れなければ営業利益で110億円、M&Aを実現すれば同160億円を目指すというものである。何とも逞しい財務目標である。
・3年目が始まったところで、3カ年計画の達成に早々と目途をつけ、次の3カ年計画を発表する会社は珍しい。通常はローリングしていくものだが、そうではなく、コミットしたものが実現したら、投資家の期待に応えるには、次の計画を早めに公表して、そのための準備を進めた方がよい、と判断した。将来に対するマネジメントの姿勢を全面に出ている。
・チェンジは、日本のデジタル生産性革命を目指し、人を変え、仕事を変え、日本を変えることをミッションとする。New-ITトランスフォーメーションは急成長を遂げているが、2018年に「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(TB)をM&Aした。ふるさと納税のプラットフォームで、ふるさとチョイスは、さとふる(ソフトバンク系)や楽天を抜いてトップである。
・当時のTBの企業価値を80億円と算定して、その60%をキャッシュで所有した。その後、持株を70%に増やした。のれんが発生したが、その償却は有税となる。よって、EBITDAは増加しても、純利益への寄与は相対的に小さいものとなった。
・その後100%子会社化する時は、TBの企業価値を300億円と算定し、30%分をチェンジの上場株式と交換した。この株の交換に、チェンジの株式6%強を活用した。のれん代などは発生なかった、TBの創業者はチェンジの株を受け取った。その後、株価は成長とシナジーを見込んで大きく上昇したので、win-winとなった。
・新型コロナショックを契機にして、わが国におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は加速している。日本の生産性の向上と地方創生への貢献が、当社のSDGs、ESGである。次の中期計画(DJ2)では、①デジタル(デジタル技術の活用)、②ローカル(地域のサステナビリティ)、③ソーシャル(社会的課題の解決)の重なる領域をスイートスポットとする。
・東京圏以外のローカルにデジタル化の恩恵を広め、地域課題の解決に貢献する。とりわけDX推進に当たっての人材不足に応えていく。DX人材の育成では、KDDIと合弁で4月から新会社「ディジタルグロースアカデミア」をスタートさせた。人材育成のコンテンツを、KDDIの全国法人ネットワークにのせて拡大のスピードアップを図る。好調に立ち上がっている。
・パブリテック(パブリックセクターのNew-IT)では、「ふるさとチョイス」が順調に利益貢献を高めており、パブリテックのLoGoチャット、LoGoフォームなども新たに成長軌道に入りつつある。
・最初の3カ年計画(DJ1)はTBのM&Aをテコに実現してきたが、DJ2でも、大型のM&Aをターゲットとしている。内部成長と外部成長を分けて、M&Aを明示的に目標として掲げている。顧客基盤、プロダクト、リソース獲得の戦略が早晩具体化しよう。
・これは、いい案件があれば取り組みたいというレベルではなく、何としてでも実現していくというコミットメントである。このような中期計画を発表する会社は数少ない。
・会社側は、案件を常にいろいろ検討している。ある意味それは当然で、検討するだけなら、多くの会社でも同じように取り組んでいると表現できよう。しかし、チェンジの動きはかなり異なる。
・3月に海外投資家向けに公募増資を行い、165億円を調達した。外人持株比率も21%に上昇した。6月には銀行と特殊当座借越契約195億円を締結した。M&Aの実行を目的とした借入枠の設定である。
・次に、8月に臨時株主総会を催した。バーチャルオンリー総会ができるように定款を変更し、バランスシート上の資本金、資本準備金の減少を特別決議として実施した。このために、臨時株主総会を開くことも珍しい。
・3月の公募増資で資本金、資本準備金が増加している。そこで、資本金106億円を10億円へ、資本準備金106億円を10億円へ減額した。その分は、その他資本剰余金に移った。その減額分192億円は、株主への分配可能額として使える。
・つまり、大型のM&Aを実行する時、この資金を活用して自社株買いを行い、その株式を買収先に交付するという株式交換が、余裕をもってできるようになる。こうすると、のれんの発生やのれんの有税償却という問題が避けられる。株主にとっての企業価値向上がより分かり易くなろう。
・さらに、9月までに20億円を上限とする自己株式の取得を実施する。これも、M&Aの時に株式交換の対価として活用できる。全体として、200億円規模のエクイティ対応が想定できよう。
・投資家の関心は、次のM&Aがどのような経営資源(人材や顧客基盤)を手に入れていくのかにある。具体的には、どのような会社なのか。その会社をM&Aすることで、本当に企業価値を断層的に伸ばすことができるのか。ここを注視している。
・チェンジはM&Aを成長戦略の柱として、緻密に戦略を練って準備を進めている。今後の展開がプラスのサプライズとなるか、マイナスのサプライズとなるか。人材も集まっており、企業価値の一層の向上が見込めるので、第2期の成長戦略に大いに期待したい。