プロの機関投資家をみる視点~誰に任せるか

2021/09/14

・プロ(専門家)とアマチュア(素人)は何が違うのか。スポーツでみると、その能力のレベルが格段に違う。でも、アマチュアでもプロ並みの能力を有する人はいる。プロになるには、資格が必要な場合やプロの組織に属する必要がある。

・プロゴルフとアマチュアゴルフでみると、頭と体と時間を使ってお金を稼ぐのがプロ、頭と体と時間とお金を使って楽しむのがアマチュアともいわれる。これは、どのプロビジネスにもいえそうである。

・オリンピックはどうか。お金が直接の目的ではないが、アスリート達がメダルという表彰のシンボル(名誉)を目指して、トップを競う。フェアなルールはあるが、ルールは時代とともに変化していく。オリンピック種目からはずれる競技もあれば、新しく加わる競技もある。最近はプロ、アマに関係なく優れたアスリートが参加できる。

・金融の世界はどうか。資産運用業(アセットマネジメント:AM)について、プロとしての役割を考えてみよう。6月に金融庁から「資産運用業高度化プログレスレポート2021」が公表された。

・プロとして、もっとレベルを上げて、高いパフォーマンスを出すにはどうしたらよいか。同じプロといっても、そこには違いがある。どのプロビジネスでも、差があるのは世の常である。しかし、全体の水準を上げることは必要であり、競争の土俵に何らかの歪みがあるなら直していく必要がある。

・個人投資家として、直接株式投資を行う場合と、公募投信を購入する場合の違いを考えてみよう。生活者のための年金の原資を、アセットオーナーから機関投資家に任せる場合も同じであるが、機関投資家をどのように評価するのか。個人投資家として、注目すべき視点がいくつかある。

・個人で株式投資をする場合、自分でポートフォリオを作ることになる。どんな会社に投資するのか。そのポートフォリオに名前を付けるとしたら、どんなネーミングにするのか。何か楽しそうである。

・自分でやるのだから、全責任は自分にある。でも、パフォーマンスが出なかったら嫌になってしまう。プロのコツをうまく活かして、高いパフォーマンスを出したいと思っても、そう簡単にはいかない。

・個人でうまくやっている人はいる。自分でもやってみたいが、自信がない。本物のプロに任せてみたいという人が大半であろう。では、どこのプロに任せるのか。これがよく分からない。

・その時は、まず運用会社(AM)を、ソニーや伊藤忠商事のような1つの会社として考えてみればよい。そのAM会社に投資しますか。

・その時、何を考えるか。1)AM会社の経営者やファンドマネージャーは優れているか。2)運用において新しいイノベーションに取り組んでいるか、3)パフォーマンスの変動に対して、リスクマネジメントは十分できるか。4)それを支えるESGはしっかり確立されているか。これらの視点は、株式投資を考える時と同じである。

・よく分からないままに、あるいは、販売会社に勧められるままに、ある運用会社のある商品(投資信託)を購入してはならない。その時は納得したつもりでも、後になって、こんなはずではなかった、ということになりかねない。それは避けたい。

・金融庁が問うているのは、1)ルールを守って、しっかり運用しているAM会社であるか、2)AMが、本当に顧客本位の運用になっているのか、3)AM会社の都合で別の方向をみていることはないか、という点にある。

・AM会社の投信を買うというのは、当然、顧客として投信という商品を購入する。しかし、それはどういう顧客なのだろう。スーパーで食品を買った顧客とは何か違う。自動車販売店で新車を買った顧客とも異なるように思える。

・当然ながら、購入したのではなく、投資したのである。会社型の投信ならば、まさに投資したことになるが、日本での投資信託は、投資というより商品の購入というイメージが強い。

・独立系の投信会社の方がパフォーマンスがよい。これからを考える時、過去のトラックレコード(実績)は最も大事である。でも、過去よかったからといって、将来もよくなるとは限らない。得てして、逆のことも多い。

・そこを判断するには、AM会社の経営の仕組みや、運用の体制をよく知る必要がある。AM会社の社長やファンドマネージャーが、投資家の前に現れて説明会を行う必要がある。実際、しっかり行っている会社のパフォーマンスは良い方向にあるとも言える。

・金融庁のプログレスレポートでは、AM会社に、1)顧客の利益を最優先するガバナンスの確立、2)長期の運用を重視する経営体制、3)目指す姿と強みを明確にする取り組み、4)それらを実践する業務運営、を求めている。

・AM会社の社外取締役は機能しているか。AM会社の独立性は確保されているか。パフォーマンスが劣っているのはどこに原因があるのか。パフォーマンスが出ていないのに、自らのコストを優先していないか。顧客に向き合ってきちんと対話しているか。こうしたことを問うている。

・また、不用なコストを顧客にチャージしていないか。アクティブ運用なのでコストはかかるといいながら、運用パフォーマンスでパッシブに負けたくないという理由で、インデックス運用に近いポートフォリオ(クローゼット・トラッカー)に逃げていないか。個人向け投資一任のファンドラップは、パフォーマンスがそのコストに見合っているか。

・さらに、ヘッジファンド、PE(プライベートエクイティ)、不動産、インフラ、コモディティなどのオルタナティブ運用で遅れをとっていないか。最近でいえば、クリプトコイン(暗号通貨)も検討対象になるかもしれない。

・サステナブルファイナンスに関わるESG投資は、ネーミングだけのみせかけファンド(ESGウォッシング)になっていないか。E(環境)、S(社会、人権)、G(ガバナンス、ダイバーシティ)は、ポートフォリオにどのように組み込んでいるのか。AM会社は、それを見極める能力を組織として持っているのか。

・CFA協会で、プログレスレポートを解説した安野氏(金融庁資産運用高度化室長)は、プロとして、自分自身が本当に投資したくなる投信を、開発し、運用し、販売してほしいと強調した。

・運用コストが高いということが問題でなく、運用プロセスの歪みを是正して、支持が得られるパフォーマンスを見える化してほしい、とも語った。まさにその通りである。個人投資家としては、AM会社をよく知った上で、その会社のプロダクトを吟味したい。そして、本物のプロに任せたいものである。

株式会社日本ベル投資研究所
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