マーケットの変曲点はいかに~玉石混交を見抜く
・何事にも予兆というものがある。事前に分かればよいが、多くの場合、あとになってそれが兆しであったと納得することになる。
・コロナ禍で株式市場が強い。みんなが大変な時に、なぜ株価だけが上がるのか。これをどう説明するのか。日経平均株価はいずれ急落するのか。とすれば何が原因か。この点について考えてみたい。
・長年の経験則を踏まえた思考実験と考えてもらいたい。個別企業でも株式市場全体でも、PBR(株価純資産倍率)=ROE(自己資本利益率)×PER(株価収益率)という関係式が成り立つ。
・2月13日の日経新聞をみると、日経平均株価のPBRは1.30倍、PERは23.3倍であった。PBR 1.30=ROE 5.36×PER 23.3ということになる。今はコロナの影響で業績が落ち込んでいるが、下期に入って戻っている企業が多い。
・COVID-19のワクチン接種が進んで、1年後には状況がはるかによくなるものと想定される。通常ならROE 8%×PER 15倍なのでPBRも1.2倍であって妥当である。つまり、企業業績はかなり短期に戻ってくるとマーケットはみている。そうならば、今のマーケットが特にバブルというほどではない。全く正常とみてよい。
・別のデータで1月の状況をみると、日本 1.4倍=7.4%×18.8倍、米国 4.4倍=16.5%×26.6倍であった。PERが通常の15倍より高いが収益力が戻ってくるならば、一定の説明力はある。
・しかし、市場全体の収益力が簡単に戻ってこないとすると、調整は大幅になる。日・米とも30%以上の株価下落が起きてもおかしくいない。そのきっかけは何か。
・1つは、コロナショックの克服に向けた各国の財政出動にある。金融は超緩和状態にある。これが長く続くという前提が当たり前になっている。一方で、低金利がコロナ禍の景気対策になるという見方は少ない。もう効かないのである。
・とすれば、IS(貯蓄投資)バランスからみても、政府がお金を使うしかない。日本の国家予算は100兆円規模で、その3分の1が国債などの借金に頼っている。その中で、コロナ対策に50兆円以上を使うほどの大判振る舞いである。そのくらい事態は深刻である。
・自然災害の時には1兆円、5兆円、10兆円という単位であった。実際、阪神大震災は被害額が10兆円、東日本大震災は20兆円前後であった。多くの人々や特定の地域や産業に大打撃が出るような局面で政策を打つには、大型の救済が必要である。それでもスピードや規模において十分ではなく、国民の不満は高まってしまう。
・コロナ禍にあって、企業も国民もできるだけ動かないで耐えている。お金を使っていないので貯まっている。今は政府がお金を使っている。かなり無駄な部分があるとしても、少しでも困っている人に回ればよい。業種別に厳しいサービス、飲食、旅行、交通などの救済に使われている。それでも失業は増え、倒産を余儀なくされる会社が続出している。
・もう1年の辛抱であるという見方が基本で、2年でコロナ対策は手が回るという読みのもとにマーケットは動いている。これがそうはいかないとなった時には、大きな反動がこよう。
・もう1つは、コロナ対策がみえて、感染者を防ぐことができた時には、1)溜まっていた消費や投資が一気に出てくる、2)一方で、政府の緊急財政出動は大幅に引いていく。トータルで見た時に、国の持ち出しの方が大きいということは十分考えられる。
・つまり、経済全体でみると、中期的に日本経済がよくなるわけではない。危機は乗り切ったものの、全体としての疲弊感はツケとして残ってしまうことが十分想定される。
・GDP=1人当たりGDP×人口 という関係において、日本の1人当たりGDPはこの20年全く伸びていない。今や日本の1人当たりGDPの額(4.0万ドル)は、シンガポール(6.5万ドル)や香港(4.5万ドル)にも及ばない。この付加価値生産性をいかに上げるかが問われている。
・カギは、人材とDXである。しかし、人材でみると高齢化が進み、若い世代では非正規雇用が増えている。DXはこれからにしても、その人材は大幅に不足している。
・政府、地方自治体、保健所などの施設においてもDXは遅れている。小中学校において、DX教育はこれから始まるところである。民間企業においても、DX化できないビジネス領域は山のようにあり、ここへの取り組みこそが企業の優劣を決めることになる。
・国内の市場に限りがあるなら、企業も人材も世界に出ていく必要がある。世界の人々に貢献する中で、雇用を見い出し、企業価値を上げていくことが必須であろう。
・老後を支える投資という点でも、日本の株式だけではなく、世界の株式市場に投資することが求められる。なぜなら、世界の成長率の方が日本より高いからである。その動きはすでに活発化しつつある。
・しかし、世界の株式市場が崩れたのでは、再び投資した資金にロスをかかえてしまう。ここでカギを握るのは、米国マーケットである。コロナショックを乗り越えて、米国景気が回復する時、金融緩和を続けるといっても、そうはいかず、マーケットが予想外に反応して、想定以上の金利上昇を招いてしまうことがありうる。
・バイデンショックが起きるかもしれない。コロナ対策で膨張した財政を賄うために増税策を打ち出して、それが現実味を増す時である。あるいは、米中摩擦で武力的な紛争が起こる時である。いずれも、世界同時的に株式市場の大幅調整が迫られよう。
・いつの世にも、材料株、仕手株を扱う相場師がいる。今時は、SNS株、ストーリー株とスペキュレーターであろう。彼らはイノベーターか、マニピュレーターか。企業の活動を、インベンション(発明発見)→イノベーション(革新)→バリュークリエーション(価値創造)→マネタイゼーション(収益化)という局面に分けた時、どこで勝負するか。まさに波瀾万丈となろう。
・どの局面でも個別株の選別は重要である。材料株、仕手株を踏み上げたり、空売りしたりして、相場を操作する動きがいろいろ出ている。実態のない株が暴騰したり、実態があってもPER 50倍ではなく200倍まで買われたりする。筆者は、期待を織り込むしても、ROE 30%×PER 100倍=PBR 30倍が1つの目途であると考える。
・時代の変わり目には、新しい企業が続々登場してくる。そこで玉石混交をいかに見抜くか。マーケットに踊らされることなく、今こそ的確なポートフォリオを作っていきたい。