デジタル資本生産性の追求~NRIの新指標に注目

2019/12/09

・NRI(野村総合研究所)の此本社長の話を聴いた。デジタル資本主義に関するNRIの分析と提言は年々内容が充実して、今や新しい視点を提供し、高い評価を受けている。

・従来の伝統的経済学を超えるような分析は冴えをみせている。かつての成長期に、3C(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)や新3C(カラーテレビ、クーラー、自動車)が人々の生活を豊かにした。このデータを測る時には、生産者の側から積み上げていくのが通常のやり方である。

・消費者がどのくらい満足しているかという観点から計測はしていないし、それを測る方法は簡単ではない。でも、顧客満足度(CS)が重要であるというのは分かっているし、マーケティング分析でも使われている。

・NRIではデジタル化と生活満足度の関係を分析した。「生活者1万人アンケート」を3年に1回行っているが、このデータをベースにしている。Webによる単なるアンケートではなく、かなりしっかりした訪問調査も行っている。1億円もかけて、通常の統計では得られないデータを集めている。

・この10年で、自分の生活レベルが中の上以上だという人が増えており、中の下以下だという人が減っている。本当だろうか。通常の統計をみれば、GDPはさほど伸びておらず、平均年収も下がっている。生産性が上がっておらず、世界の国別ランキングをみても、日本の凋落は顕著である。

・しかし、自分が中の上以上と考える人の割合が1997年の9.6%から2018年には20.0%に上がっており、中の下以下と思う人の比率は36.6%から25.3%に下がっている。

・この間、ネット社会になって、ネットをよく使う人ほど、所得が高く、生活満足度も高いという傾向がはっきり出ている。インターネットを使うことで、今までよりも便利になった、新しいコンテンツが得られるようになった。これを利用して活動の広がりが得られるようになったということが、満足度を高めているとも解釈できる。

・NRIでは、これを消費者余剰とよんでいる。通常、価格(売上げ)からコストを引いたものが、生産者余剰(企業の付加価値、利潤)であり、これがGDPとして計測されている。一方、消費者が得られる満足度を基準に、それならこのくらいは支払ってもよいという支払意思額と実際の支払額(価格)との差が消費者余剰である。

・これは、消費者からみた時の自分にとっても付加価値であり、これが大きいほど満足度も高いとみることができる。これをアンケートのデータから計測して、マクロ的に推計した。

・そうすると、2016年時点で日本の実質GDPは520兆円で、3年前に比べて、年率0.7%しか伸びていないが、デジタルサービスが生み出す消費者余剰は2016年で161兆円もあり、これを加えると、GDP+消費者余剰は年率3.8%で成長していたことになる。

・この消費者余剰を実感している人々は、生活の満足度が高いと感じ、自分は中の上以上にいると感じているという見方ができる。

・インターネットが広がり、スマホ社会になり、SNSのコストはゼロになっている。ネットを使って、いろんなことが分かり、実際に体験したりすることもできる。経済的豊かさは、GDPだけでは捉えきれなくなっているという見解を、データを使って分析してみせた。NRIのこの分析は凄い。

・NRIはGDPとは別に、デジタル社会の進展を測るデジタル経済社会指標(Digital Capability Index)を開発した。EUにはデジタル化の進展を示すDESIという指標があるが、この日本版を構築した。

・DCIは、生活満足度との相関を勘案して、4つの構成指標にそのウエイトをつけた。DCIの第1の軸はネット利用(ウエイト30%)で、第2の軸はデジタル公共サービス(同30%)、第3の軸はコネクティビティ(同20%)、そして第4の軸、人的資本(同20%)とした。

・これをみると、DCIを上げるほど人々の生活満足度も上がっていく。この重み(ウエイト)は1万人調査をベースに推定している。ネットの利用を高め、公共サービスにおけるデジタル利用を飛躍的に上げ、5G時代のデジタル機器を普及させ、人々のICT教育のレベルを上げていくことが極めて重要である。

・デジタル経済のデータの価値をどう計るか。どの企業においてもデータは増えている。しかし、それが使われていなければ、何の価値も生まない。

・DX(デジタルトランスフォーメーション)で、新しい価値を生みだすようにできるか。①コストバリュー(限界費用の低減)、②エクスペアレンスバリュー(貴重な経験の提供)、③プラットフォームバリー(バリューチェンをまとめるエコシステムのリーダー)のどこにフォーカスしていくのか。

・NRI流にいえば、例えば、1)資生堂にお肌診断のアルゴリズムを提供すること、2)コマツの建設機械を利用する現場全体をデジタル化すること、3)東進スクールのナガセにおける生徒起点の合格設計アルゴリズムを提供すること、などがあげられよう。

・労働生産性ではなく、資本生産性ではなく、デジタル生産性の追求こそが日本の目指す方向であるというのが、此本社長の提言であった。デジタル生産性をベースとして、DCIについて、各企業と深く議論してみたい。新しい投資アイデアが生まれそうである。

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