数理科学の基礎と応用~いかに関わるか

2019/10/21

・9月に「藤原洋数理科学賞」の講演を聴きに行った。インターネット総合研究所の藤原代表取締役が創設した賞である。数学者は純粋に学問としての研究を行っている。すぐに世の中に役立つものは少ない。

・しかし、科学的知見で世の中が大きく変化する時、その基礎として数学は役立っている。この数理科学をサポートする賞が民間にはないということで、藤原賞が作られた。

・第8回の表彰式では、第1回の大賞を受賞した小澤正直氏(名大名誉教授)の基調講演(量子測定理論)に続いて、今回大賞を受賞した吉田朋広氏(東大教授)の確率過程統計論と、奨励賞を受賞した神山直之氏(九大教授)の離散最適化理論の講演があった。

・市民にも分かるように易しく話すという主旨であったが、そうはいかない。しかし、生の話を聴くと、厳密には理解できないが、どのようなことを狙っているのかは分かる。

・量子コンピュータの時代がいずれくる。フィンテックでビッグデータを金融でも統計的に扱うようになる。社会システムをうまく動かすには、人々のニーズを最適にマッチングさせていく必要がある。そこに数理科学が使えそうである。

・いずれも面白い話であった。その骨子に触れながら、数理モデルを構築し、応用するとはどういうことかを考えてみたい。

・小澤先生は、ハイゼンベルグの不確定性原理の不正確さを、80年ぶりに改良した。原子より小さい量子の世界では、電子などの粒子の位置と運動量(波動など)を、同時に正確に測ることはできない、

・これが1927年に出されたハイゼンベルグの不確定性原理である。粒子の位置の誤差に、測定しようとすることによって粒子の運動量の乱れが加わるからである。

・このハイゼンベルグの原理(プランク定数の不等式)をもっと精密に定義することで、誤差の範囲をより小さくできる小澤の不等式が2003年に提唱され、それが2012年にウィーン工科大学の原子核研究所の中性子スピン測定で実証された。

・小澤の不等式で、誤差をより正確に知ることができるようになった。この実証を踏まえて量子力学の研究は進み、量子コンピュータの実用化に向けて展開している。

・吉田先生は、確率過程の統計学(確率微分方程式)を応用して、データをモデル化し、そのモデルのパラメータを精度よく推定し、それを何らかの予測に用いる研究を行っている。

・フィンテックへの応用が分かり易い。例えば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の株価に相関があり、そこにリーダーがいるとすれば、そのリーダー株の動きをすばやく追いかけながら、次に動く株を高速で予想すればリターンを得ることができる。超高速な取り引きが可能なので、データをきちんと活用できれば可能性は高まる。

・相関を追うには、共分散を推定する必要がある。各社の株価取引データは、例えば100分の1秒単位でみれば、時間が違っている。つまり同期がとれていない。同じ取引時刻でないデータを使うと、相関性は劣化していく。これを防ぐために、疑似尤度(ゆうど)解析モデルを開発して、パラメータの特定を行うことにした。

・こうすると、モデル(確率微分方程式の関数式)の精度が上がるので、ランダムに解を探すモンテカルロ法に比べて、高速で多項式が推定できる。これを予測に用いると、これから上がる株、下がる株を見い出すことができそうである。これをYUIMA(ユイマ)と名付けたソフトウェアに仕上げている。金融データの解析にいろいろ応用できよう。

・神山先生は、バラバラな離散データから、何らかのいいものを選ぶ方法について研究を進めている。例えば、保育所の選択について、子供と施設のマッチングをどのように行うのか。その改善方法を引きだそうとする。子供の家庭事情と保育施設への優先順位をどのように調整して、最適な組み合わせを行うのか。

・このアルゴリズム(算法)を見つけたい。しらみつぶしではなく、構造を見極めてペアリングの中からよいマッチングを行う。グラフ状の広がりに、入口から出口への方向をもたせ、これを有向グラフとして、重なりがないようにパッキングしていく。

・これを有向木(ゆうこうき)の詰め込み問題という。誰にとっても都合のよくない状態がない解を見い出せば、それが安定マッチングとなる。

・この理論構築において、神山先生は大きな成果をあげた。九大では、マス・フォア・インダストリ研究所に属しており、まさに産業に応用できる数学を展開している。

・例えば、小さい子供が2人いる家庭にとって、順番だといって、別々の保育所が割り当てられたら、共働きにとってその送り迎えは大変である。できれば、同じ保育所に入れたい。実際、この希望は実証研究の福岡でも埼玉でもあった。

・何らかの解はあるのか。何と、皆が満足する安定マッチングは理論上ない、というのが結論であったという。つまり、うまい方策はないということがはっきりした。これはこれで重要な事実であり、次の政策に活かされていこう。

・デジタルデータの社会がますます進行する。そこでは何のためのデータか。どうモデル化するか。モデルを通して最適化はできるか。提供する解の満足度は十分なのか。何らかのリスクや不確実性を内在化していないか。

・こうした点が、社会システムへの応用では問われる。数理科学の発展が、その基盤を支えることになろう。中長期の社会価値、企業価値の創造にとって、こうした基礎研究と応用研究は欠かせない。企業のR&Dにおいても数理科学は不可欠である。サポートも含めて、ぜひ取り組んでほしい。

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