英国経済の現状と今後のポンド相場、EU離脱交渉の展望
- 英国の16年7-9月期実質GDP成長率は前期比年率+2.0%。Brexit選択後も景気は堅調です。
- 英ポンドは投機的な動きにも振らされて割安感が強まっており、今後、反発する局面も期待されます。
- EUとの離脱交渉は不透明感が根強いものの、現在の悲観的な見方は行き過ぎと考えられます。
景気は「アベノミクス」初期と同じような流れ
27日に英国家統計局が発表した16年7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.0%でした。Brexit(英国のEU〔欧州連合〕離脱)選択後も英国経済は堅調です。個人消費や設備投資などの需要項目別の寄与度は未発表ですが、業種別の動きではサービス業がけん引しており、内需主導の成長と見られます。
主な経済指標では、小売売上高が4-6月期の前年同期比+4.4%から7-9月期は同+5.5%へ加速しました。また、輸出が4-6月期の同+3.2%から7-8月平均は同+10.0%と大きく加速しています。アムンディは、Brexit 選択直後に英国の実質GDP成長率の見通しを引き下げました。しかし、9月以降引き上げています。英ポンド(以下、ポンド)の下落が景気を下支えするとの見方です。これは「アベノミクス」初期の円安進行を受けて、日本の景気が大きく上向いたのと同じ流れです。
過去最大級の投機的売りポジション
ポンドはBrexit 選択後に急落し、さらにメイ英首相が10月2日、保守党大会の演説で17年3月までの離脱交渉開始を宣言したことで、改めて英国経済のリスクが意識され、再度急落しました。1ポンド1.2ドル台は85年以来31年ぶりの安値です。
ただし、足元までのポンド急落は、大規模な投機的なポンド売りによるところにも注意が必要でしょう。CFTC(米先物取引委員会)によると、CME(シカゴ商業取引所)に上場しているポンド先物市場での非商業ポジションは約57億ポンド(約7200億円、10月18日時点)の売り超過となっており、過去最大です。これは、同時点の日本円のポジション(約4600億円の買い超過)、ユーロのポジション(約1兆5500億円の売り超過)と比べても、経済規模などを考慮すればいかに大きなポジションに膨らんでいるかが分かります。したがって、EU離脱に向けた交渉や経済に対する市場の見方が変われば、大きく反発する局面も有り得ます。
「英国経済一人負け」を現段階で織り込むのは行き過ぎ?
一方、中長期的にはEUとの離脱交渉の行方が不透明要因です。10月20-21日のEUサミット(首脳会議)に出席したメイ英首相は、離脱後もEUとの良好な関係を維持したい旨の発言をしました。これに対して、難民問題などを抱える中で、経済的な負担を免れ、利益だけを得る「おいしいとこどり」は許さないという反応があります。
現在、EUとの関係を断ち切って完全な「外国」となる「ハードBrexit」か、経済的利益を受けると同時に、EU内のルールも一部順守する「ソフトBrexit」か、という論議が盛り上がっており、現在はハードBrexitのリスクを市場が織り込みつつあると思われます。しかし、そのような見方は悲観的過ぎると考えられます。交渉の結果、EU市場への参入可能性は下表のとおり何パターンか有り得ますが、いずれにしても、一方の国・地域のみが不利益を被るとは考えにくく、仮に英国にとって不利となる場合でも、通貨価値の変動によって調整されてしまうのではないかと思われます。
現に、悲観的な見方が先行してポンド安が進行したため、英国経済は堅調となり、10月以降のポンド安がさらにその傾向に拍車をかける可能性もあります。その場合は、英中銀(イングランド銀行)による追加金融緩和への期待も後退し、金利上昇によって逆にポンド反発の一因になることも考えられます。いずれにしても、一方的にポンド安のみを展望するのはリスクが大きいと思われます。
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