サスメド<4263> 不眠症治療用アプリについて22年2月に医療機器承認申請を行う予定

2022/01/24

デジタル治療アプリの開発を主として展開
不眠症治療用アプリについて22年2月に医療機器承認申請を行う予定

業種: 情報・通信業
アナリスト: 阪東 広太郎

◆ デジタル治療アプリ開発を中心とした事業展開
サスメド(以下、同社)は、「デジタル治療(Digital Therapeutics、以下、DTx)」の開発を中心としており、治療用アプリ開発を行う「DTxプロダクト事業」、汎用臨床試験システム及び機械学習自動分析システム等を開発・提供する「DTxプラットフォーム事業」を展開している。「DTxプロダクト事業」については、検証的試験注1を終了しているが、製品の販売には至っていない。

DTxは、スマートフォンアプリ等の形態をした、ソフトウェアによる治療手段である。規制当局の承認を得た科学的根拠に基づく医療機器であり、一般的なヘルスケアアプリケーションとは異なる。DTxでは患者の医療へのアクセスが通常の医療と比べて容易になり、医療機関外での活動データの蓄積が可能となることから、「治療中断率が高い」「適切/適時/適量の治療介入が行えず、結果として治療が長期にわたる」という慢性疾患特有の課題を解決することが期待されている。

治療用アプリの開発では通常の医薬品や医療機器の開発プロセスで求められる非臨床試験が省略できたり、ソフトウェア自体が製品となるため、医療機器承認後の製造過程においても工程管理や品質管理が比較的容易であるなど、開発コスト、開発期間、販売後の収益性などのリスクを低減できると考えられている。同社は、対象疾患によって異なるが、治療用アプリ開発について必要な期間は6年程度、費用は数億円~数十億円程度と考えている。

◆ DTxプロダクト事業
同社は、慢性疾患や、認知行動療法注2、運動療法注3が有効とされる疾病に対する複数の治療用アプリを開発している。

21年6月末時点の同社における治療用アプリの開発パイプラインは、不眠症、乳がん、ACP注4、慢性腎臓病、遷延性悲嘆障害注5等を対象疾患とした8件である。これらの中でも不眠症治療用アプリyukumi(仮)の開発が最も進んでおり、21年11月に検証的試験で主要評価項目を達成し、22年2月に医療機器承認申請を行う予定である。乳がん向けは探索的試験注6でPoC注7を獲得し、検証的試験の準備を行っている。他のパイプラインは研究やアプリ制作、探索的試験の準備段階にある。

① 不眠症治療用アプリ
厚生労働省によると、日本人の5人に1人が「睡眠で休養が取れない」、「何らかの不眠がある」といった症状を自覚している。睡眠障害に対する治療法としては、米国国立衛生研究所の指針では認知行動療法が第一選択となっているが、日本では睡眠障害に対する認知行動療法に保険適用がなされておらず、人的リソースに限りのある医療現場にとっては負担の大きい治療法となるため、やむを得ず薬物療法が選択されている。また、薬物療法以外の選択肢が少ないため、日本は睡眠薬の処方量が先進国の中でも多く、厚生労働省が多剤処方注8に対して保険点数を減算するなどにより処方減に取り組んでいるが結果、中小規模の医療機関の経営に大きな影響を及ぼしている。

同社は、ICTを活用した治療用アプリで不眠症に対する認知行動療法を確立することを目指している。同社は、普及しているスマートフォンのアプリケーションを活用し、薬物療法から認知行動療法にシフトすることで、睡眠薬の処方量の削減及び適正使用につなげたいと考えている。

同社の不眠症治療用アプリは、医師が不眠症と診断した患者に対して処方されることが想定されている(図表1)。同社のアプリは数分程度の診療で処方が可能なため、対面での認知行動療法と比較して医療機関の負担が小さい。患者は自宅等で、アプリに日々の睡眠時間等を入力し、アプリは患者の入力内容等に基づき、患者の症状を把握し、症状に応じて患者が取るべき行動等を患者のアプリに送信する。同社のアプリには、患者が治療から離脱する兆候を把握し、離脱を防止するメッセージを送信するなどの機能も備わっている。

事業推進上、対処すべき課題としては、治験による医療機器承認と、保険収載注9及び収益確保が可能となる保険点数の確保が挙げられる。

16年9月より、同社は、同社が開発していた不眠症治療アプリの探索的試験を開始した。探索的試験によって本アプリについて不眠症改善効果及び安全性を確認することができ、その結果をもとに、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)と今後の臨床開発の方針について議論した上で21年5月から11月まで検証的試験を実施した。その結果、主要評価項目を達成し、22年2月に医療機器申請を行う予定である。

医療機器承認後に課題となる保険収載については、一般社団法人日本睡眠学会のネットワークを利用して内科系学会社会保険連合委員と意見交換している他、厚生労働省医療機器審査部・経済課との面談を開始している。

上市後の販売戦略については、製薬企業等と、MR注10を通じた販売を目的に業務提携の議論を行っている。また、医師向けには日本睡眠学会で臨床試験での成果の解説並びにアプリケーションを使用した認知行動療法の実施に関する啓蒙を行い、一般消費者向けには睡眠薬を使用しない不眠症の治療に関する啓蒙を提携製薬企業と共同で行う事を検討している。

② 乳がん患者運動療法アプリ
乳がんは累積罹患リスクで見ると女性の9人に1人が生涯で罹患すると言われ、部位別では最も罹患率の高い疾患である。同社は、乳がん患者向けに、死亡率の低下やQOL注11の向上を目的とした運動療法を提供するアプリケーションを開発している。

臨床試験(探索的試験)においてPoCを獲得し、その結果について論文を発表している。21年には国立研究開発法人日本医療研究開発機構の「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」に採択され、今後の検証的試験の実施に向けてプロトコル注12を検討している。

③ ACPアプリ
ACPの実施によって早期に緩和ケアに取り組んだ結果、予後(病気や治療等の医学的な経過の見通し)の改善やQOL の改善といった効果が実証されており、アメリカや台湾では医療保険の適用対象としてACP が実施されている。日本でも、ACP による早期緩和ケアと意思決定支援による患者の不安・抑うつ症状の改善、加えて死亡直前の抗がん剤投与の減少による医療費の適正化を目的として、国全体でACP 普及・啓発に努めている。

同社は、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、進行がん患者に対するACP 用アプリを開発しており、21 年9 月からPoC 取得に向けた臨床試験(探索的試験)を行っている。

④ 慢性腎臓病患者リハビリテーションアプリ
慢性腎臓病は、心不全、心筋梗塞、脳血管障害等のリスク因子であり、患者数は厚生労働省によると日本国内で1,300 万人と推計されている。腎臓リハビリテーションは、腎機能の改善もしくは悪化抑制において有効性が示され、日本腎臓リハビリテーション学会のガイドラインでも推奨されている。

同社は腎臓リハビリテーションアプリについて、日本腎臓リハビリテーション学会の支援のもと、東北大学大学院医学研究科 内部障害学分野とPoC 取得のための臨床試験(探索的試験)の準備を進めている。

◆ DTx プラットフォーム事業
DTx プラットフォーム事業において、同社は、①汎用臨床試験システム、② 機械学習自動分析システム、③DTx 開発支援の3 つのサービスを展開している。21/6 期における事業収益の構成比は、汎用臨床試験システム2.6%、機械学習自動分析システム70.2%、DTx 開発支援27.2%である。

① 汎用臨床試験システム
新しい医薬品・医療機器の開発で行われる臨床開発は労働集約的で煩雑なプロセスやそれに伴う実施費用の高額化が開発コストの増加に繋がる課題とされている。近年、臨床試験データをリモートで取得する「リモート治験」が欧米の製薬企業を中心に取り組まれている。一方、日本では被験者の識別(なりすまし防止)、医療データの安全な取得・保管・利用など、通常の臨床試験と異なる課題がある。

同社は、不眠症治療アプリの開発過程で獲得したノウハウをベースに、効率的な臨床試験を実施するためのシステム開発を行っている。

同社のシステムには、リモート治験における各種課題を解決するために、被験者として適切かどうかを判定する「適格性判定」、データ入力者の本人性を確認する「なりすまし防止」、ブロックチェーン技術を用いた「データ改竄耐性」、臨床試験データの欠損を防ぐ「デジタル指導」など、リクルーティング注13 から臨床試験データの解析まで、一貫してデータの真正性を確保するための幅広い機能に関する技術を実装している。ブロックチェーン技術に関して、同社は複数の特許を保有している。

「ブロックチェーン技術によるモニタリング注14 業務の代替」については、20 年12 月に経済産業省及び厚生労働省より承認を得ており、21 年4 月に東京医科歯科大学とのブロックチェーン技術を用いたモニタリング手法の開発が国立研究開発法人日本医療研究開発機構の「研究開発推進ネットワーク事業」に採択され、臨床試験において、本システムおよび体制・運用などの必要な支援メニュー含め手法の確立・有効性の検証を進めている。

② 機械学習自動分析システム
同社は、医療業界で求められるRWD 注15 の分析・活用に向けて、Awesome Intelligence という名称で分析基盤を開発し、クラウドサービスとして提供している。

日本では、新薬開発前のシーズ発掘、新薬開発プロセスや市販後調査の効率化目的として、製薬企業がRWDを分析する専門部署を15 年頃から立ち上げている。RWD の分析・活用には、分析担当者が日常使用している表計算ソフトウェアでは、機能・容量面で不十分であり、巨大なデータセットでも取り扱い可能な統計分析専用のツールやAI 機能を組み込んだソフトウェア等が利用されているが、分析結果の根拠が不明瞭など、医療業界で求められる水準への対応が難しい、あるいは分析結果の利用に際して後処理の工数が大きくなることが課題となっている。

既存のAI システムでは、その判断基準がAI 内で学習データと呼ばれる大量のデータに基づいて自律的に構築されるため、システムを操作する人間側には判断基準やその根拠が示されず、ブラックボックス型になってしまうことが医療分野での利用において問題になっている。

同社が開発したAwesome Intelligence では、分析結果を導き出す際にシステムが注目した特徴量の寄与度を明示するようなホワイトボックス型の機械学習アルゴリズムとすることで、医療分野で求められる判断理由を説明可能である点が特徴である。また、同データサイエンス領域での経験が十分でない医療関係者でも柔軟に分析が行えるように、データの前処理の自動化や分析結果の出力などで利便性を高めた仕様になっている。

機械学習自動分析システムの顧客は製薬企業や医療系の学術研究機関が多い。同社によると、自社を保有するRWD データの活用ツールや委託先を検討する中で、候補先の一つとして機械学習と医療の知見を併せ持つ同社に問い合わせが入るようである。

③ DTx開発支援
同社は、同社での治療用アプリ開発並びに治療用アプリを対象とした臨床試験実施の経験に基づいて、治療用アプリの開発を目指す企業を支援している。

治療用アプリを開発するには、その制作段階において、臨床ニーズの特定から治療アルゴリズムの検討、及びアルゴリズムのアプリケーションへの実装が必要となり、加えて、治療用アプリの制作が完了した後も臨床試験のプロトコル検討、治療用アプリの管理システムの構築、実際の臨床試験の運用まで求められる。同社は、アプリケーション開発と臨床開発という異なる専門性をワンストップで提供することで、既に治療アプリのシーズを保有する企業の効率的な開発を支援している。

また、治療用アプリの制作においては、患者への介入方法、介入を決定するアルゴリズム、患者データの取得といった複数の機能を汎用的なモジュールとして用意し、それらモジュールを組み合わせただけで迅速にアプリケーションを開発できるシステム基盤を構築し、提供している。

◆ 顧客の構成
同社の事業収益は、少数の製薬企業や研究機関等に集中する傾向がある(図表2)。同社によると、21/6期に同社の事業収益の70.2%を占めた機械学習自動分析システムは、特定の目的に向けたデータ分析案件が多いが、顧客内におけるデータ分析ニーズが多数あることもあり、取引が複数年継続する場合もある。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
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