Finatextホールディングス<4419> 大手金融機関へのサービス導入実績や顧客業務への組み込みが強み
金融サービス提供者向けのクラウド型基幹システムの提供を中心に展開
大手金融機関へのサービス導入実績や顧客業務への組み込みが強み
業種: 情報・通信業
アナリスト: 阪東 広太郎
◆ 金融サービス提供者向けのクラウド型基幹システム等を展開
Finatextホールディングス(以下、同社)グループは、同社及び連結子会社7社で構成されており、金融サービス提供者向けのクラウド型基幹システムを提供する「金融インフラストラクチャ事業」、ウェブサイトやモバイルアプリといったフロントエンドサービスの企画・開発を支援する「フィンテックソリューション事業」及び、顧客企業内に蓄積されたデータの利活用を支援する「ビッグデータ解析事業」を展開している。
21/12期第2四半期累計期間(以下、上期)における売上構成比は、金融インフラストラクチャ事業22.9%、フィンテックソリューション事業39.6%、ビッグデータ解析事業37.5%となっている(図表1)。
◆ 金融インフラストラクチャ事業
金融インフラストラクチャ事業において、同社グループは、金融サービスの提供に必要な基幹システムをクラウド上でSaaS注1型システムとして提供している。
従来のパッケージ型システムと比較して、同社グループのクラウド型基幹システムには、以下の4つの特徴がある。
1) 安価な導入費用
2) 短い導入期間
3) ユーザーのニーズに沿ったサービスをテーラーメイドで開発可能
4) 顧客企業の既存サービスとの接続によるシームレスなサービス体験
同社グループは、このような特徴を活かして、下記のような先を対象にサービスを提供している。
1) BtoCサービスを運営しており、その既存ユーザー向けに金融サービスを提供したいと考える新規参入の事業者
2) デジタル特化の新たな金融サービスを立ち上げる際に、新しい基幹システムを採用したいと考える既存金融機関
同社グループは、証券ビジネス向けの証券インフラストラクチャビジネス及び、保険ビジネス向けの保険インフラストラクチャビジネスを展開しており、22/3期上期における売上構成比は、証券インフラストラクチャビジネス57.4%、保険インフラストラクチャビジネス42.6%である。
① 証券インフラストラクチャビジネス
証券インフラストラクチャビジネスでは、第一種金融商品事業者及び投資運用業者である同社子会社のスマートプラスが証券インフラストラクチャ「BaaS(Brokerage as a Service)」の運営及び顧客企業への提供を行っている。なお、スマートプラスには大和証券グループ本社(8601東証一部)が15.0%出資しており、「BaaS」の運営ノウハウや一部システムを提供している。
「BaaS」は、顧客企業が証券業務と証券サービスにかかるウェブサイトやモバイルアプリ等のフロントエンドサービスの構築に必要となる機能を提供するソフトウェアである。「BaaS」を利用することで、顧客企業は、独自開発に比べ、初期投資額を最大80~90%削減することができ、企画からサービス開発までの期間も半分まで短縮できる点が特徴である。
第一種金融商品事業者及び投資運用業者であるスマートプラスが、口座開設の審査、銀行振替・資産分別、受発注、出金に伴う手続き等に必要な外部の金融機関との連携を行うため、顧客企業は第一種金融商品事業者や投資運用業者に登録することなく、証券ビジネスに参入することが可能になる。
顧客企業は金融商品仲介業に登録し、資産運用サービスのアプリやウェブサービスに関するユーザーの集客・獲得及びユーザーによる売買取引金額や運用資産額の拡大などを担う。カスタマーサポート業務は顧客企業とスマートプラスが共同で担う事が多い。
21年9月末時点で「BaaS」が提供している金融商品は、東証上場株式現物取引、東証上場株式信用取引(制度信用、一般信用)、米国株式現物取引、投資信託の4つである。
また、「BaaS」の提供機能は、自動積立て(事前に金額を指定すると、毎月指定した金額分の株式や投資信託を自動的に購入することができる機能)、カード決済(株式や投資信託の積立てをクレジットカードで決済することができる機能)、ポイント決済(連携サービスのポイントを用いて株式や投資信託を購入することができる機能)及び投資一任契約の運用(投資家から投資判断を一任され、その投資判断に基づいて投資を行う投資一任契約に従って自動的に株式の購入・売却をすることができる機能)の4つである。
21年9月末時点で、スマートプラスが運営する従来型売買手数料無料の株式取引サービス「STREAM」に加えて、クレディセゾン(8253東証一部)を顧客とするかんたん積立て投資サービス「セゾンポケット」、ANAホールディングス(9202東証一部)の子会社であるANA Xを顧客とするロボアドバイザー注2サービス「Wealth Wing」が「BaaS」上で稼働している。
稼働中の3サービスに加えて、21年9月末時点で、Japan Asset Management(東京都渋谷区)、日本生命(東京都千代田区)の子会社であるニッセイアセットマネジメント、GCIキャピタル(東京都千代田区)、トヨタ自動車(7203東証一部)の子会社であるトヨタフィナンシャルサービス、あかつき証券(東京都中央区)の5社と「BaaS」を導入する方針で合意している。
収益モデルとして、スマートプラスは、顧客企業から初期導入時のシステム開発費、月次の定額利用料を受け取り、「BaaS」で稼働するサービスに係る証券売買取引や保有資産金額等に応じた手数料(従量課金収益)をユーザーから受け取り、顧客企業とレベニューシェアを行っている。
システム開発費は案件ごとに顧客と相対で決めているが数千万円~1億円程度の事が多いようである。資産運用サービスのアプリやウェブサービスの開発が大規模になる際は数億円規模になることもある。月次の定額利用料は顧客企業によって異なるが、数百万円/月程度が多いようである。契約期間は1年または2年、自動更新条項付きの場合が多いようである。
② 保険インフラストラクチャビジネス
保険インフラストラクチャビジネスでは、同社子会社のFinatextが保険インフラストラクチャ「Inspire」の開発及び保守、顧客企業への提供を行っている。
「Inspire」は、顧客企業が新規保険商品の導入期間を短縮できること、ユーザーが保険商品の購入から保険金支払いまでの全プロセスをオンライン上で行えることが特徴である。
21年9月末時点で、「Inspire」が提供可能な金融商品は、「少額短期保険」「損害保険」「生命保険」「共済」「延長保証」等である。MS&ADインシュランスグループホールディングス(8725東証一部)の子会社であるあいおいニッセイ同和損害保険、丸井グループ(8252東証一部)の子会社であるエポス少額短期保険が「Inspire」を利用している。
あいおいニッセイ同和損害保険は、企業が保有するアプリやWebサイト上で企業が提供するサービスと親和性のある保険商品を手軽に提供するための「デジタル募集基盤」、エポス少額短期保険はエポスカード会員専用の病気やケガによる入院に備えるための「エポス少短 生活サポート保険」に、それぞれ「Inspire」を利用している。
稼働中の上記2社に加えて、日本生命の子会社であるニッセイ少額短期設立準備、エムエスティ保険サービス(東京都新宿区)の2社と同社グループのサービスを導入する方針で合意している。
同社グループの収益源は、顧客企業からの初期導入時のシステム開発費用、月次の定額利用料及び、顧客企業がユーザーから受領する保険料収入に関する従量課金収入で構成される。システム開発費用は案件ごとに顧客と相対で決めているが、数千万円~1億円程度の事が多い。月次の定額利用料は、顧客ごとに異なる。契約期間は1年または2年で、自動更新条項付きの場合が多い。
同社グループは「Inspire」を顧客企業に提供するだけでなく、同社の連結子会社であり、少額短期保険業者であるスマートプラス少額短期保険が「Inspire」を活用して「母子保健はぐ」と「宿泊予約キャンセル保険」の2つの保険商品を、あいおいニッセイ同和損害保険及び宿泊業向けの予約システムを開発・販売・保守を手掛けるキャディッシュ(岐阜県高山市)と販売し、保険料収入を得ている。
◆ フィンテックソリューション事業
フィンテックソリューション事業において、同社グループは、①ソリューションビジネス及び、②マーケティングビジネスを展開している。22/3期上期における売上構成比は、ソリューションビジネス74.4%、マーケティングビジネス25.6%である。
なお、同社グループは、PC やスマートフォンを通じて、顕在層ユーザーにアクセスしたい金融機関に対してオーダーを提供することで収益を獲得する「オーダーフロー・シェアビジネス」を展開していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、取扱高が大幅に減少したため、20 年11 月をもって撤退している。
① ソリューションビジネス
ソリューションビジネスにおいて、同社子会社のFinatext及びK-ZONE は、金融機関に対して、金融サービスにかかるウェブサイトやモバイルアプリなどのフロントエンドサービスの開発やソリューションの提供を行っている。サービスの開発やソリューションの提供にあたっては、顧客のニーズに合わせて、ビジネス企画から開発、マーケティングまで一気通貫で支援している。
案件事例としては、三菱UFJ 銀行の金融デジタルサービスである「Money Canvas」、KDDI(9433 東証一部)の決済サービスである「au PAY」における「お金の管理」、楽天グループ(4755 東証一部)の連結子会社である楽天証券のラップサービス「楽ラップ」などが挙げられる。
収益モデルとして、Finatext及びK-ZONEは顧客企業より開発委託費やサービス維持運営費を受領している。
② マーケティングビジネス
マーケティングビジネスにおいて、Finatext及びK-ZONEは、様々な金融関連サービスに関心を有する潜在的ユーザー向けに、FinatextやK-ZONEのウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて、金融に関する学習、デモトレーディング等のゲーミフィケーション要素を持つサービスや金融商品サービスの比較を行う事ができるサービスを提供している。
同社グループが提供している主なスマートフォンアプリ・ウェブサイトとしては、株式デモ取引や株式取引に関する学習コンテンツを提供する「あすかぶ!」、FX デモ取引やFX 取引に関する学習コンテンツを提供する「かるFX」、バーチャル株投資ゲームである「トレダビ」、保険商品情報を提供する「Money Freek」が挙げられる。
上記スマートフォンアプリ・ウェブサービスのユーザーは、株式取引やFX 取引の経験が無い20 代から30 代が中心である。同社グループはユーザーに対して楽しく自然に学習できるサービスを提供し、デモ取引による成功体験を得た際など、口座開設への意欲が高まったタイミングで、証券会社やFX会社の広告を掲載し、証券会社やFX会社のウェブサイトへ送客している。
収益モデルとして、同社グループはユーザーから対価は受け取らず、同社グループのアプリから送客を受けた金融機関より口座開設数等に応じた広告掲載料を受領している。
◆ ビッグデータ解析事業
ビッグデータ解析事業では、同社の子会社であるナウキャストが、①データライセンスビジネスと②データ解析支援ビジネスを展開している。22/3 期上期における売上構成比は、データライセンスビジネス92.7%、データ解析支援ビジネス7.3%である。
① データライセンスビジネス
ナウキャストは、POS データやクレジットカードデータ等のビッグデータを解析し、解析結果を官公庁や国内外の金融機関に販売している。
主なサービスとしては、高度な定量的分析に基づく運用を行う機関投資家向に対して、POS データや人流データ、ポイントカードデータ、クレジットカードデータを活用して、個別企業の売上や価格設定、顧客単価などの分析を提供する「Alterna Data」、POS データを使用した日次の消費者物価を提供する「日経CPINow」、隔週の消費指数を提供する「JCB 消費NOW」が挙げられる。同社グループによると、「Alterna Data」の売上構成比が高いようである。
収益モデルとして、同社グループは、顧客よりID 数に応じたデータライセンス料を顧客のサービス利用期間にわたって受領している。同社グループは、データを提供するデータホルダーとレベニューシェア契約を結び、売上高の一定割合をデータホルダーに支払っている。
主なデータホルダーとしては、日本経済新聞社(東京都千代田区)、ジェーシービー(東京都港区)、KDDI、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(東京都渋谷区)の子会社であるCCC マーケティング、BCN(東京都千代田区)、True Data(4416 東証マザーズ)が挙げられる。
② データ解析支援ビジネス
ナウキャストは、金融機関や事業会社に対して、金融機関や事業会社が保有するビッグデータを活用したマーケティングやサービス改善、業務効率向上の支援を行い、開発委託費等を受領している。
◆ サービスの提供体制
同社グループの従業員の配置は、プロダクト開発(エンジニア、プロジェクトマネジャー、デザイナー、ウェブデイレクター)が約70%、セールス/PRが9%、金融業務が10%、コーポレートが10%であり、プロダクト開発を重視した体 制となっている。