デジタリフト<9244> 3つのサービスにより、クライアントの「長期的な伴走者」となることを目指している
デジタル広告の運用を代行するトレーディングデスクの専業会社
3つのサービスにより、クライアントの「長期的な伴走者」となることを目指している
業種: サービス業
アナリスト:大間知 淳
◆ デジタル広告の運用を代行するトレーディングデスクの専業会社
デジタリフト(以下、同社)は、広告主からデジタル広告配信に関することを 一手に引き受け、効果の最大化を目指して、広告の運用を代行するサービ スであるトレーディングデスク事業の専業会社である。
デジタル広告は、特定メディアの広告枠を買取って掲載する「予約型広告」 と、配信内容・配信数・配信先・広告予算等をリアルタイムで変更する「運用 型広告」に大別されるが、トレーディングデスク会社が扱うのは運用型広告 である。
同社のトレーディングデスク事業は、「アジャイル広告運用サービス」、 「CdMO(シーディーエムオー)サービス」及び、20 年 4 月にサービスを開始 した「LIFT+(リフトプラス)」の 3 つのサービスによって構成されている。同社 は、業界や広告予算規模にかかわらず、あらゆるクライアントニーズに合致 した価値提供を目指している。具体的には、広告予算規模が小さいクライア ントには LIFT+、中規模のクライアントにはアジャイル広告運用サービス、大 規模のクライアントには CdMO サービスとアジャイル広告運用サービスの併 用を提供している。20/9 期のサービス別売上高構成比は、CdMO サービス とアジャイル広告運用サービスの併用 36.0%、アジャイル広告運用サービス 61.5%、LIFT+2.5%である。
(1)アジャイル広告運用サービスは、中~大規模クライアントを対象に、広 告運用期間において、消費者の変化を捕捉しつつ、その変化に対応し て運用計画を柔軟に変更して広告運用を継続することで、消費者の購 買行動を喚起し、クライアントの売上向上への貢献を目指している。
同社の担当者が、運用計画設定時において自社のリサーチ情報とクラ イアントからのヒアリング情報・開示情報に基づいて配信構造を設定し、 広告配信の運用を実行している。その後は、運用結果に応じて、運用 計画を短いサイクルで継続的に改善する仕組みとなっている。
(2) CdMO サービスは、大企業を対象に、CMO(Chief Marketing Officer、 最高マーケティング責任者)の digital(デジタル)領域の補佐役となるこ とを目指して、同社の担当者が包括的なマーケティング・コンサルティン グサービスを提供している。具体的には、デジタル戦略のアイデアの提 供や、デジタルツールの最新事例及び他社事例の提供、新製品・新サ ービスの立上げに関するアドバイス、デジタルマーケティング組織の構 築・強化等の方針検討等を行っている。
(3) LIFT+は、小規模企業や事業立上げ期の企業を対象に、独自開発の パッケージ型広告運用サービスを提供している。広告予算が限られて いるクライアントのために、業務を定型化・自動化することでコストを抑え つつ、運用品質を高く維持できるようにサービスを提供している。
運用計画の設定に当たっては、同社の担当者がヒアリングを行うが、効 果的な配信設定を行った後は、広告配信ツールである LIFT+が設定通 りに自動運用を行い、運用期間中及び運用終了後に、運用状況、配信 結果をレポートとして自動的に生成し、クライアントに提供している。
同社は、特定の業種業界への特化を志向しておらず、多種多様な顧客層 に対して、サービスを提供している。結果として、19/9 期から 21/9 期第 3 四 半期までの延べ取引先業種数(広告代理店経由の取扱数は、案件単位で 業種の数に含めている)は 83 業種にのぼっている。
また、同社は、「ノウハウを備えた専門人材」と幅広い「取扱い広告配信プラ ットフォーム」によって、専門性の高い運用体制を構築している。同社は、広 告業界における技術変更点を習得し、知識レベルの標準化、組織内の人 材育成を行える人材を、「ノウハウを備えた専門人材」と定義しており、同人 材は、19/9 期末の 7 名から 21/9 期第 3 四半期末で 16 名に増加している。
同社は、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の正会員であ る広告配信プラットフォーム事業者35社のうち、85.7%に当たる30社を取扱 っており、多種多様なクライアントのニーズに対応している。
◆ 博報堂DYメディアパートナーズ等の3社への依存度が高い
同社の取引先は、広告代理店とエンドユーザーである広告主によって構成 されている。主な広告代理店としては、博報堂DYホールディングス(2433東証一部)の中核子会社である博報堂及び博報堂DYメディアパートナー ズ、Web サイト制作やデジタルマーケティング支援等を手掛けるセンタード (東京都新宿区)が挙げられる。一方、主な広告主としては、テレビ朝日ホー ルディングス(9409 東証一部)の連結子会社で通信販売を手掛けるロッピン グライフ、英国ブランド靴の販売会社であるドクターマーチン・エアウエアジ ャパン(東京都渋谷区)、ポート(7047 東証マザーズ・福証 Q-Board)の連結 子会社で外壁塗装マッチングサイトを運営するドアーズ(東京都港区)が挙 げられる。
売上高の約5割は広告代理店を経由している模様であり、特に、博報堂D Yメディアパートナーズ等の広告代理店 3 社との取引が多い状態が継続し ている。各年度での各社との取引額には変動はあるが、3 社合計の取引額 は、19/9 期以降では概ね売上高の 3 割前後で推移している(図表 1)。
◆ フリークアウトグループとの関係は深くはない
同社は、12 年 11 月に、代表取締役の百本正博氏によってトレーディングデ スクサービスを事業目的として設立された。13 年にはフリークアウト・ホール ディングス(6094 東証マザーズ)の前身会社であるフリークアウトの認定パー トナー資格を取得した。お互いが事業上のシナジー効果が期待できると考 えたため、同社は 16 年 8 月にフリークアウトの連結子会社となった。
フリークアウト・ホールディングスは、21 年 7 月 31 日時点で同社の議決権の 54.9%を保有していたが、公募増資や売出しを実施後の上場時点でも同社 株式の 32.5%を保有しており、同社はフリークアウト・ホールディングスの持 分法適用会社に該当する。フリークアウト・ホールディングスは、DSP 注事業 を中心に展開しており、同事業の中核子会社がフリークアウトである。同社 のクライアントがフリークアウトの DSP サービスの利用を希望する場合、フリ ークアウトからの仕入取引が発生するが、その金額は、20/9 期において、広 告枠の仕入に際しインターネットメディアやアドネットワークに支払うインター ネット広告費(以下、媒体費)の 4.1%に相当する 64 百万円と僅少である。ま た、現時点で、フリークアウト・ホールディングスグループ内の他社との競合 関係はない。
同社の役員 7 名(取締役 4 名、監査役 3 名)のうち、フリークアウト・ホールデ ィングスの出身者や、フリークアウト・ホールディングスの役職員の兼務者は いない。また、同社は、経営上の重要な意思決定おいて、フリークアウト・ホ ールディングスによる事前承認事項はなく、自由な事業活動は阻害されて いないとしている。
◆ クライアントの「長期的な伴走者」になることを目指している
同社は、主力サービスであるアジャイル広告運用サービスのクライアントとは、 複数年で契約しており、21/9 期第 3 四半期末における平均取引継続月数 は 43.5 カ月と長い。クライアントの事業規模の拡大に応じて、CdMO サービ スを付加する等、クライアントの「長期的な伴走者」となることを目指してサー ビスを提供していることが取引の長期化に繋がっていると見られる。
アジャイル広告運用サービスとCdMOサービスを対象とした四半期の1社あ たり顧客取引高については、20/9 期第 3 四半期の 25,560 千円から 21/9 期 第 2 四半期には 37,235 千円に増加しており、顧客との関係が深まっている ようである(但し、21/9 期第 3 四半期は、新型コロナウイルス問題の影響を受 けて、27,851 千円に減少した)。
同社の 20/9期の原価率は75.6%と高い。売上原価の全ては媒体費となって おり、変動費に該当する。
サービス別の収益の内訳については、アジャイル広告運用サービスは、媒 体費に15~20%程度の手数料と、その他の付帯手数料を加算した金額とな っている。CdMO サービスとアジャイル広告運用サービスの併用は、上記に 加え、CdMO サービス手数料(コンサル費用や成果報酬、制作手数料等) を加算した金額となっている。LIFT+は、媒体費に15~20%程度の手数料と 初期設定手数料を加算した金額となっている。結果、サービス別の売上総 利益率は、アジャイル広告運用サービスが最も低く、CdMO サービスとアジ ャイル広告運用サービスの併用が最も高くなっている模様であ
販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、給与手当、支払報酬、 地代家賃、役員報酬、減価償却費等の固定費が中心を占めており、販管 費率は19.1%、営業利益率は5.4%となっている。なお、CdMOサービスはコ ンサルティングサービスを提供しているため、給与手当等の人件費の負担 が他のサービスよりも重くなっているが、営業利益率で見ても、CdMO サー ビスの収益性が最も高いことに変わりはないようである。
同社は、KPI として、平均取引継続月数、1 社あたり顧客取引高、既存取引 先(自社で開拓した広告主)からの紹介顧客数及び同比率の四半期数値を 挙げており、20/9 期第 1 四半期、または第 3 四半期以降の数値を開示して いる(図表 2)。